福祉型の家族信託のスキーム1

福祉型の家族信託には、①高齢者などに代わっての管理処分機能、②親亡き後・伴侶亡き後の財産承継と管理処分機能、③民法などでは対処できないケースについてニーズがあるとされています。

高齢者などに代わっての管理処分機能についてのニーズとは、どのようなものなのでしょうか。

自分が認知症などによって判断能力が低下してしまうと、適切に財産の管理ができなくなることや、有効に財産の処分ができなくなるという不都合が生じてしまいます。また、介護保険サービスの利用や施設の入所の契約の締結、役所での手続など、自分に必要な各種手続を自ら行うことができず、必要なサービスなどが受けられないことになると、日常生活に支障をきたすことになりかねません。

そこで、例えば、Aが認知症などによって判断能力が低下してしまう前に、Aを委託者、Aとその配偶者Bを受益者、Aの親族Cを受託者とする信託契約を締結するという方法が考えられます。これにより、Aが認知症などによって判断能力が低下したとしても、Cが受託者として、信託財産をAの生活費などに充てることになるので、Aが生活費などで困ることがなくなります。また、Aの配偶者Bを受益者とすることで、信託財産をBの生活費に充てることが可能となります。この点、任意後見契約による財産管理では、本人以外の家族のために財産を利用することは限定的であるので、自分以外の家族のために財産を利用したい場合には、家族信託という方法を選択することが有用といえるでしょう。

ただ、家族信託における受託者は、財産の管理・処分などを行うことはできますが、介護保険サービス契約・入所契約、医療契約、役所での各種手続などを行うことはできません。そこで、Aを委任者、Cを受任者とする、任意後見契約を併せて締結するというスキームが考えられます。このスキームでは、生活などには不要な金融資産など受託者が管理するのが相当な財産を信託財産として、後見事務から切り離し、身上保護を担当する任意後見人の求め(指図)に応じて、不足する生活費や高額な医療費などを受託者が給付するという仕組みとなります。また、このスキームにおける信託契約の効力は、任意後見契約の効力と同時に生じるような仕組みとします。

このスキームにより、Aが認知症などによって判断能力が低下した場合には、CがA・Bの生活などのために財産の管理・処分をしつつ、身上に関する契約の締結や各種手続を行うことが可能となります。

(司法書士・行政書士 三田佳央)