特別養子縁組の審判手続

(1) 家庭裁判所への申立て

特別養子縁組は、養親となる者の申立てに基づき家庭裁判所の審判により成立します。申立てをすべき家庭裁判所は、養親となるべき者の住所地を管轄する家庭裁判所です。申立てをすると、家庭裁判所において、①特別養子適格の確認の審判と、②特別養子縁組の成立の審判の2段階の審判がされます。

申立人は、この2つの審判の申立てを同時にしなければなりません。これは、特別養子適格の確認の審判は、特別養子縁組の成立に向けた中間的な審判つぃての側面を有するから、特別養子縁組の成立に向けた活動が期待できる者に限ってその申立てを認めることが相当であると考えられたからです。

(2) 特別養子適格の確認の審判

家庭裁判所に申立てをすると、まず、特別養子適格の確認の審判がされます。これは、養子となるべき者について特別養子縁組を成立させることへの実父母の同意があることや、特別の必要性の要件があることを確認するための審判です。

この審判は、養子となるべき者の出生から2か月が経過した場合や、養子となるべき者が18歳に達した場合には、行うことができません。

前者は、出生後一定期間は精神的に不安定であることから、子の出生後2か月間は特別養子縁組の成立についての同意という重大な判断をさせるべきではないと考えられるからです。

後者は、特別養子縁組は、養子となるべき者が18歳未満でなければ成立しないからです。

① 実父母の同意の確認

実父母の同意が、この審判手続における①家庭裁判所調査官による事実の調査を経たうえで家庭裁判所に書面を提出してされたものである場合、②審問の期日においてされたものである場合には、実父母は、同意をしてから2週間経過後は、その同意を撤回することができません。

これは、特別養子縁組が成立すると、実父母と養子となるべき者との間の法律上の親子関係が終了するという重大な効果が生じることから、実父母がその効果を理解したうえで縁組の成立について同意をすることを制度的に担保する必要があるからです。

また、同意をしてから2週間経過する前は、同意を撤回することができるとされているのは、合意に相当する審判や調停に代わる審判について、異議申立て期間が2週間とされていることを参考にし、一定期間は同意の撤回を認めたものです。

ただし、撤回が制限される同意は、養子となるべき者の出生の日から2か月が経過した後にされたものに限られます。これは、出生後一定期間は精神的に不安定であることが考慮されたからです。

② 特別の必要性の要件の確認

特別養子縁組は、①実父母による養子となるべき者の養育が著しく困難・不適当であること、②その他特別の事情がある場合において、家庭裁判所が子の利益のために特に必要があると認めたときに成立させます。

①は、客観的にみて養子となる者の適切な養育が期待できないことです。例えば、未成年者が未婚で出産したが、経済的に余裕がなく、子を育てることができない場合です。②の特別な事情とは、特別養子縁組を成立させ、父母との間の法律上の親子関係を終了させることが子の利益のために特に必要と判断される事情を含むとされています。例えば、実父からの不当な干渉などは消滅したにもかかわらず、戸籍から実父の存在を知り、訴訟などの紛糾した事態を知り得る場合です。

この要件の認定は、裁判官の判断に委ねられています。

③ 陳述の聴取

特別養子適格の確認の審判をするには、15歳以上である養子となる者・実父母の陳述を聞かなければなりません。前者は、親権喪失等の審判においても、15歳以上の子の陳述を聞かなければならないとされていることを考慮されたからです。後者は、実父母は特別養子縁組の成立の審判手続には参加をすることができず、特別養子縁組の成立を阻止することができなくなることが考慮されたからです。

特別養子適格の確認の申立てを却下する審判をする場合には、実父母の陳述を聞かなければなりません。これは、特別養子適格の確認は、実父母による養育状況を踏まえてされるものだからです。養子となるべき者については、その年齢を問わず、陳述を聞く必要はありません。この場合には、養子となるべき者の法律関係を変動させるものではないからです。

④ 特別養子適格の確認の審判の効力

不服申し立ての期間が経過すると、特別養子適格の確認の審判は確定します。確定した特別養子適格の確認の審判は、特別養子縁組の成立の審判を係属する裁判所を拘束します。このように、特別養子適格の確認の審判においては、父母の同意の有無・特別の必要性の要件の該当性といった実父母に関する要件の存否について審理判断されますが、特別養子縁組の成立の審判においては、養親となるべき者の適格性と養親となるべき者と養子となるべき者との適合性(マッチング)についてのみ審理判断されるという仕組みが採用されています。そのため、実父母に関する要件ついては特別養子適格の確認の審判の判断を前提としなければなりません。

⑤ 審判の告知

家庭裁判所は、特別養子適格の確認の審判をした場合には、養親となるべき者・養子となるべき者・実父母などに対し、その審判を告知しなければなりません。これは、特別養子適格の確認の審判は、養親となるべき者・養子となるべき者・実父母に重大な影響を及ぼすことになるからです。

ただし、養子となるべき者の年齢・発達の程度その他一切の事情を考慮してその者の利益を害すると認める場合は、その者に告知することを要しないとされています。これは、養子となるべき者にはさまざまな背景があり、審判の告知をすることが相当でない場合があると考えられるからです。

⑥ 不服申し立て

特別養子適格の確認の審判に対しては、養子となるべき者・実父母が即時抗告をすることができます。これは、特別養子適格の確認の審判が確定すると、特別養子縁組の成立に向けた試験養育が行われ、養育環境に大きな変化が生じる場合があること、実父母は特別養子縁組の成立の審判手続には参加することができず、特別養子縁組の成立を阻止することができなくなるからです。

特別養子適格の確認の申立てを却下する審判に対しては、申立人が即時抗告をすることができます。これは、申立人による不服申し立ての機会を保障するためです。

(3) 特別養子縁組の成立の審判

特別養子適格の確認の審判がされると、特別養子縁組の成立の審判がされます。これは、特別養子適格の確認の審判を前提に、養親となるべき者と養子となるべき者との適合性(マッチング)を判断する手続です。この審判をするにあたっては、試験養育を実施する必要があります。

① 試験養育

特別養子縁組を成立させる審判をするには、養親となる者が養子となる者を6か月以上の期間養育した状況が考慮されます。この期間を試験養育といいます。これは、①養親となる者が養育能力を備えているか否か(養親の適格者)、②養親となる者と養子となる者との間に親子の折り合いが良好に経過するか否か(両者の適合性)を判断するために、養親となる者に子を一定期間試しに養育させてみることが必要であるとされています。

試験養育の期間は、家庭裁判所への申立ての時から起算します。どのくらいの期間を要するかは、具体的な事案に応じて家庭裁判所が判断します。ただし、その申立て前の養育の状況が明らかであるときは、養育開始の時から起算されます。これは、試験養育の目的が縁組を成立させるべきか否かを的確に判断するためのものだからです。例えば、里親が里子を特別養子とする審判の申立てをした場合です。

② 実父母の関与

実父母は、この審判手続に参加することができません。また、特別養子適格の確認の審判において確認された実父母の同意は、撤回することができません。このように、特別養子縁組の成立の審判においては、実父母が手続に参加し主張することが認められていません。このことにより、養親となるべき者は、実父母による同意の撤回や意見の主張によって、子を実父母に戻さなければならないという不安を抱くことなく試験養育をすることができますし、実父母と対峙する必要がありません。

③ 陳述の聴取

家庭裁判所は、特別養子縁組の成立の審判をするには、養子となるべき者が15歳以上である場合に限り、その者の陳述を聞かなければなりません。これは、特別養子縁組の成立には、15歳以上である養子となるべき者の同意を要するとされているからです。

④ 審判の告知

特別養子縁組の成立の審判は、養親となるべき者・養子となるべき者に告知されます。これらの者については、特別養子縁組の成立に関する審判に対し、不服申し立てをすることができるので、その機会を確保する必要があるからです。ただし、家庭裁判所が、養子となるべき者の年齢・発達の程度その他一切の事情を考慮してその者の利益を害すると認める場合には、15歳未満である養子となる者には告知されません。これは、特別養子縁組の成立の事実については、養親において養子の心情に配慮して適切な時期に行うべき場合があるからです。これに対し、15歳に達している者については、原則どおり、必ず告知がされます。これは、養子となるべき者が15歳に達している場合には、その者の同意がなければ特別養子縁組を成立させることができないからです。

特別養子縁組の成立の審判は、実父母に告知されません。これは、実父母には特別養子縁組の成立の審判に対して不服申し立てをすることが認められていないため、その機会を保障する必要がないからです。ただし、住所・居所が知れている実父母に対しては、審判をした日・審判の主文を通知しなければなりません。これは、特別養子縁組が成立すると、実父母と養子となるべき者との間の法律上の親子関係が終了するという重大な効果が生じることになるからです。

⑤ 不服申し立て

特別養子縁組の成立の審判に対しては、養子となるべき者が即時抗告をすることができます。これは、特別養子縁組の成立の審判は、養子となるべき者と実父母との法律上の親子関係を終了させるものであることから、不服申し立てをする機会を保障するためです。

特別養子縁組の成立の申立てを却下する審判に対しては、申立人が即時抗告をすることができます。これは、申立人による不服申し立ての機会を保障するためです。

⑥ 特別養子縁組の成立の申立てに関する審判の効力

不服申し立ての期間が経過すると、特別養子縁組の成立の申立てに関する審判は確定します。

特別養子縁組の成立の審判が確定すると、養子と養親との間に法律上の親子関係が成立し、養子と実父母との間の法律上の親子関係が終了します。

特別養子縁組の成立の申立てを却下する審判が確定すると、特別養子適格の確認の審判は、その効力を失います。特別養子縁組の成立の申立てが取り下げられた場合も同様です。これは、特別養子適格の確認の審判は、特別養子縁組の成立の審判に向けた中間的な審判という側面を有するものであることと、確定した特別養子適格の確認の審判を前提に、他の養親となるべき者が特別養子縁組の成立の申立てをすることは認められていないので、その効力を維持させておく必要がないことが考慮されたからです。

(司法書士・行政書士 三田佳央)