本人の死亡による任意後見の終了

任意後見契約は委任契約の一類型であるので、本人の死亡により終了します。その後、遺体の引き取り、死亡届の提出、葬儀、火葬・埋葬という一連の死後事務が必要となります。また、これらの事務と並行して、生前の未払債務の支払い、葬儀関係費用の支払い、居住スペースの明渡しといった事務をも行うことが必要となります。これらの事務は相続人が行うのが原則です。しかし、相続人による速やかな対応が困難なケースでは(相続人と疎遠になっている、相続人に対応を拒絶されたなど)、任意後見人が善処義務・事務管理を根拠として対応せざるを得ないのが実情です。なお、死亡届の提出は、任意後見人も行うことができます。

もっとも、任意後見契約の締結と同時に死後事務委任契約を締結することが可能であり、この場合には、任意後見人は、死後事務委任契約において授権された代理権の範囲について死後事務を行うことができます。実務では、相続人による死後事務が速やかに行われない事態に備えて、任意後見契約と合わせて死後事務委任契約を締結するのが多いでしょう。

任意後見契約が終了した場合には、任意後見人は、東京法務局に対し、任意後見契約終了の登記を申請しなければなりません。この終了の登記をしなければ、その代理権の消滅を善意(その事実を知らないことをいいます)の第三者に主張することができません。また、任意後見人の事務について、相続人に対して経過・結果を報告しなければなりません。

本人の死亡により任意後見契約が終了した場合には、任意後見人は、管理している本人の財産を相続人などに引継ぎをしなければなりません。相続人が存続する場合には相続人に引継ぎをし、遺言書があり遺言執行者が定められていればその遺言執行者に引継ぎをすることになります。遺言執行者が定められていなければ、遺言執行者の選任の申立てをし、選任された遺言執行者に引継ぎをすることになります。相続人のあることが明らかでない場合には、相続財産清算人の選任の申立てをし、選任された相続財産清算人に引継ぎをすることになります。相続人は存在するものの速やかな引継ぎをすることが困難な場合には、相続財産管理人の選任の申立てをし、選任された相続財産管理人に引継ぎをすることになります。

(司法書士・行政書士 三田佳央)