任意後見における身上配慮義務・本人意思尊重義務

任意後見人は、任意後見契約において本人から委託された事務を行うにあたっては、本人の心身の状態・生活の状況に配慮しなければなりません。これを身上配慮義務といいます。

任意後見契約は、委任契約であることから、任意後見人は、善良なる管理者の注意義務(善管注意義務といいます)を負うことになります。これは、受任者は本人の信任を得て事務処理をする以上、本人が不利益を被ることがないように配慮しなければならないということです。そして、任意後見契約における任意後見人の身上配慮義務は、この受任者の善管注意義務を敷衍して、その内容を具体化・明確化したものだとされています。

この身上配慮義務の対象には、任意後見契約によって与えられている代理権に基づく本人の「生活、療養看護及び財産の管理に関する」法律行為とそれに付随する事実行為が含まれます。

なお、受任者の善管注意義務については、特約により軽減・免除することができると考えられていますが、任意後見人の身上配慮義務については、任意後見契約法によってあえて規定されていることから、善管注意義務とは異なり、特約によって軽減・免除は認められないと考えられるでしょう。

また、任意後見人は、任意後見契約において本人から委託された事務を行うにあたっては、本人の意思を尊重しなければなりません。これも、受任者の善管注意義務を敷衍して、その内容を具体化・明確化したものだとされています。

本人意思尊重義務に関しては、本人の権利擁護の要請との関係が両立しない場合においては、両者をいかにして調和させるかが困難な問題となります。任意後見人が事務を行うときには、本人の判断能力が低下しているので、法定後見と同様に、本人の意思を尊重することによって、本人に対して重大な損害が生じるような場合には、本人の権利擁護の要請を優先させることになるでしょう。もっとも、任意後見の場合は、任意後見契約の締結時に、本人の意思を具体的に聴取しておくことで、より本人の意思を尊重した事務を行うことが可能となるでしょう。

(司法書士・行政書士 三田佳央)