任意後見における身上保護

任意後見契約が発効したら、任意後見人は、本人と面会する必要があります。本人の身上面での状況を把握するためです。実務では、任意後見監督人と同行して本人と面会するのが通常です。その際に、任意後見契約が発効したこと、同行した任意後見監督人が任意後見人を監督していくことを伝えることになります(どこまで伝えるかは本人の判断能力の程度にもよります)。移行型の任意後見であっても、この段階を省略することなく実施すべきであるとされています。

福祉サービス利用契約(介護サービス・施設入所・配食サービス契約など)の締結・変更・解除や費用の支払いは、任意後見人が行う身上保護に関する事務の中心的なものです。この場合においては、任意後見人は、法律行為としての契約締結とこれに付随する事実行為のみを行い、具体的な事実行為(本人を介護する行為)は行いません。これは、任意後見契約は代理権付与を伴う委任契約の一類型だからです。

法律行為に付随する事実行為としては、見守り活動があります。これは、本人を定期的に訪問することによって、本人の生活・身体状況を確認することです。例えば、入所した施設において本人と面会し、施設内における処遇を確認することなどです。これによって施設内の処遇に改善点が見られた場合には、任意後見人が本人に代わって施設側に改善を申し入れることになります。このような活動は、福祉サービス利用契約に付随する事実行為であると考えられています。

また、医療契約・入院契約の締結や医療費・入院費の支払いをすることも任意後見人における身上保護に関する事務に該当します。しかし、本人が医療行為に同意できない場合に、任意後見人が本人に代わって医療同意をすることはできないと考えられています。ただ、実務では、当然のように医療機関から任意後見人同意を要求しており、やむを得ず同意をしている場合が大半です。

本人の延命措置についても、医療同意の場合と同様に、本人に代わって任意後見人において決定することはできないと考えられています。ただ、本人の判断能力が十分ある段階において、本人から延命措置についての意向を聴取するなどして認識している場合には、その意向に沿った決定をすることが本人の意思を尊重することになるといえるかもしれません。

(司法書士・行政書士 三田佳央)