任意後見における財産管理

任意後見契約によって、任意後見人に対し、財産管理に関する代理権が付与されている場合には、任意後見人は、その代理権の範囲内において、財産管理の事務を行うことになる。

任意後見の場合は、法定後見の場合と異なり、任意後見契約が発効して任意後見人となった当初に財産調査をすることや、財産調査に対する任意後見監督人の立会や、家庭裁判所への財産目録の提出などの義務は定められていません。しかし、実際には、任意後見人となった当初に改めて財産の状況を調査して最新の財産目録を作成し、今後の事務の予定を立てる必要があるとされています。これは、任意後見契約を締結した時点から任意後見契約が発効した時までの間に、本人の財産状況は変化しているものだからです。なお、任意後見監督人から指示がある場合には、任意後見監督人に財産目録を提出しなければなりません。

任意後見人として預貯金取引など金融機関との取引をするために、金融機関に対して任意後見の届出をして任意後見人の登録をすることになります。この届出をする際には、任意後見の登記事項証明書、任意後見人の実印・印鑑証明書・本人確認書類(運転免許証等)が求められています。この届出をすることにより、任意後見人が届出をした印鑑で預貯金取引をすることができるようになります。また、従来使用していた本人のキャッシュカードが利用できなくなることがほとんどです。金融機関によっては、任意後見人用のキャッシュカードの発行・利用が認められています。

本人の介護・入院費用等を捻出するために、本人所有の不動産を処分することも、任意後見人事務として行うことがあります。任意後見の場合は、本人の居住用不動産を処分する場合でも、任意後見監督人の同意は不要であり、また、法定後見の場合と異なり、家庭裁判所の許可も不要です。しかし、実務では、居住用不動産であるか否かにかかわらず不動産のような重要な財産の処分を行う場合には、事前に任意後見監督人と協議すべきでしょう。任意後見人が不適切な処分をした場合には、任意後見監督人の事後のチェックでは、原状回復が困難だからです。

任意後見人は、任意後見監督人に対し、任意後見契約で定められたとおりに、その事務について報告をしなければなりません。法定後見の場合と異なり、任意後見人が家庭裁判所に直接報告をすることはありません。家庭裁判所への報告は、任意後見監督人が任意後見人の報告をもとにして行います。実務では、任意後見契約の内容として、「任意後見監督人に対して3か月ごとに報告する」旨の条項が定められていることが多いです。

(司法書士・行政書士 三田佳央)