任意後見制度の必要性6

これまで述べたように、任意後見制度は、本人の自己決定を尊重する仕組みとなっていますが、同時に、利用しづらい仕組みにもなっています。これが、任意後見制度の利用が低迷している要因ではないでしょうか。

それでは、現行の任意後見制度の利用について、どのように考えるべきでしょうか。

①本人が第三者との間で財産管理等委任契約を締結する場合に、合わせて任意後見契約を締結するということが考えられます(移行型)。これにより、財産管理等委任契約と任意後見契約に連続性を持たせることができ、本人の判断能力が低下した場合に、円滑に任意後見監督人の選任の申立てをすることが期待できます。

もっとも、財産管理等委任契約において、受任者が適切に財産管理等の事務を行っていれば、法定後見制度に移行したとしても、家庭裁判所が受任者を後見人等に選任する蓋然性は高いといえるでしょう。また、法定後見制度に移行する際に、家庭裁判所により受任者において後見人等として財産管理等を行う適格性ついて改めて審査されることになるし、後見人等に付与される代理権の範囲についても、改めて検討することができるので、財産管理等委任契約を締結した時からの事情の変化に対応することが可能となります。特に補助類型においては、代理権付与の範囲だけでなく、同意権・取消権付与の必要性やその範囲について、本人の状況や保護の必要性に応じた対応が可能です。

このことから、財産管理等委任契約を締結する際に、合わせて任意後見契約を締結することが、必ずしも本人の利益に適うものとはいえないのではないでしょうか。

また、たとえ任意後見契約に移行したとしても、その契約の内容では本人の保護には不十分な状況である場合には、法定後見制度に移行せざるを得ないのが実情です。そのため、任意後見制度は過渡的な制度であるとの指摘があります。

②本人が財産管理等委任契約を締結せずに、任意後見契約を締結する場合は(将来型)、本人の判断能力が低下した時に、任意後見受任者が適切に任意後見監督人の選任の申立てをすることができるようにする必要があります。そのため、本人と任意後見受任者との間で見守り契約を締結するなどして、任意後見受任者が定期的に本人と関わるようにしておきます。

もっとも、本人の判断能力が低下するまでの間に、任意後見受任者が適切な関わり方をしていれば、法定後見制度に移行したとしても、家庭裁判所は任意後見受任者を後見人等に選任する蓋然性は高いといえるでしょう。また、補助類型に移行する場合には、本人の保護の必要性に応じて、補助人に対し、代理権や同意権・取消権を付与することが可能です。

このように、任意後見制度は、硬直的で利用しづらい側面があるのは確かであるといえるでしょう。また、補助類型は任意後見制度に近い制度であるとも考えられます。そこで、任意後見制度の利用を普及するためには、法改正による制度の改善が不可欠ですが、現状としては、任意後見制度を利用するよりも、法定後見制度(特に補助類型)の運用を改善することにより、本人の自己決定を尊重するとともに、本人の利益を保護していくべきでしょう。

(司法書士・行政書士 三田佳央)