法定単純承認において相続財産の処分時に相続人が相続開始の事実を知ることの要否

相続が開始した後に、相続人が相続財産の全部または一部を処分した場合には、その相続人は、相続を承認したものとみなされるため、その後に相続放棄をすることができなくなります。実務上問題となるのは、相続人が相続の開始した事実を知らないで相続財産を処分した場合にも、相続を承認したものとみなされるのかという点についてです。

これについて、最高裁判所の判例は、相続財産の処分をした相続人が相続を承認したものとみなされるには、その相続人が自己のために相続が開始した事実を知りながら相続財産を処分したか、または、少なくとも相続人が被相続人の死亡した事実を確実に予想しながらあえてその処分をしたことを要するものと解しなければならない、と判示しています。すなわち、相続人が相続財産の処分をした時に相続開始の事実を知らなかった場合には、相続を承認したものとはみなされないということになります。

これは、たとえ相続人が相続財産を処分したとしても、いまだ相続開始の事実を知らなかったときは、その相続人に相続を承認する意思があったものと認めることはできないから、相続を承認したものとみなすことはできないからです。このことは、相続人が相続財産を処分した場合には、相続を承認したものとみなされるという規定は、相続財産を処分することには、相続を承認する意思が含まれているものと推定される趣旨とする見解を前提としていることになります。

(司法書士・行政書士 三田佳央)