成年後見人による本人の行為の追認

後見開始の審判を受けた本人がした契約については、日常生活に関する行為を除き、成年後見人によって取り消すことができるのが原則です。もっとも、成年後見人は、取り消すことができる契約を追認することができます。追認をすると、その契約を取り消すことができなくなります。追認は、契約の相手方に対する意思表示をすることによって行います。本人がした契約が本人の不利益とはならないものであれば、その契約を取り消すことはせずに追認することによって、本人の自己決定を尊重することが可能となります。

では、後見開始の審判を受ける前に本人がした契約を、その後、就任した成年後見人は、追認することができるでしょうか。実務では、本人に成年後見人が付くことを前提として、ホームヘルパーなどがサービスを本人に提供して、本人が後見開始の審判を受けた後に、成年後見人に対して契約書について署名押印を求めることがあります。後見開始の審判の確定日以後の日付をもって、成年後見人が契約を締結することができるのは当然です。しかし、実務では、ホームヘルパーの事業所などから、成年後見人に対して、本人が後見開始の審判を受ける前の日付で契約書の署名押印を求められることがあります。このような場合において、成年後見人としてはどのような対応をすべきでしょうか。

この点については、まず、契約がすでに成立している場合には、成年後見人は契約の追完をすることができます。この場合には、契約の締結日を日付として記載します。また、成年後見人が代筆した旨とその日付を記載します。このようにしておけば、成年後見人が契約の追完をしたことが明確になります。

もっとも、契約がすでに成立しているか否かの判断が問題となります。後見開始の審判を受けた者は、判断能力を欠く常況にある者だから、後見開始の審判を受ける前に本人が契約をした時に、本人には意思能力が無かった可能性があるからです。

この点については、まず、成年後見人において、本人と面談をしてその意思能力の有無を確認します。それから、ケアマネージャーなどの関係者から、当時の状況や契約に至るまでの経緯を聴取します。それらの事情を考慮して、本人の意思能力でき、その意思が明確に判明できれば、その意思に従うことになりますが、はっきりしなければ、本人の意思を推認することにより判断します。

以上により、契約締結時に本人の意思能力とその意思が確認できた場合には、成年後見人は契約の追完をします。

これに対し、本人の意思能力やその意思が確認できなかった場合には、契約は無効となるので、その契約を清算することになります。もっとも、その契約が本人にサービスを提供するものである場合は、提供したサービスについての費用を清算することになるので、契約が成立した場合とあまり変わらないでしょう。商品を購入する契約の場合は、商品の返品と費用の返還を請求することになります(ただし、意思能力が無かったことの証明は困難です)。ホームヘルパーの契約などの介護保険サービス提供の契約については、本人の意思を確認できる場合が多いでしょう。なお、本人の意思が確認できずその契約が無効となる場合には、追認することはできませんが、成年後見人が新たに同様の契約をすることは可能です。

(司法書士・行政書士 三田佳央)