任意後見制度の必要性3

任意代理による代理権は、「本人の死亡」によって消滅することになりますが、「本人の判断能力の喪失・低下」したことによって消滅するとはされていません。しかし、本人の判断能力の喪失・低下した場合において、任意代理を継続することは、受任者を適切に監督することが困難なため、代理権の濫用を防ぐことができなくなるので不適切であると考えられます。そのため、「本人の判断能力の喪失・低下」したことを、任意代理による代理権の消滅事由とする見解が主張されています。

この点については、本人の判断能力の喪失・低下した場合において、任意代理を継続することが不適切だから代理権の消滅事由とすることは、解釈論としては無理があるように思われます。法改正により対応されるべき事項でしょう。ただ、上述のように、この場合において、任意代理が継続することが不適切であると考えられるので、現行法上では、次にように考えることができるでしょう。

現行法においては、精神上の障害により判断能力が低下した場合において、法定後見制度(後見・保佐・補助)を設けていることから、このような者が代理人による支援を受けるにあたっては、法定後見制度を利用することが想定されていると考えられます。そのため、受任者においては、本人の判断能力が喪失・低下した場合には、善管注意義務の一内容として、法定後見制度の申立ての手立てを講ずる義務があると考えます。任意後見契約を締結している場合には、任意後見監督人選任の申立ての手立てを講ずることになります。受任者が申立権を有するときは、受任者自身が申立てをすることもできますが、他の申立権を有する者が申立てをしてもよいでしょう。受任者がこの義務に違反してこれらの申立ての手立てを講じなかったときは、それによって生じた損害を賠償する責任を負うことになります。法定後見制度や任意後見制度に移行することにより、任意代理による代理権は消滅します。

このように考えると、受任者に代理権を与えていた場合において、任意後見契約を締結していなかったときは、本人の判断能力の喪失・低下によって法定後見制度に移行し、任意後見契約を締結していたときは、任意後見制度に移行することが想定されているといえるのではないでしょうか。

また、この場合において、法定後見制度の補助類型に移行する場合には、任意後見制度と類似する点が少なくないことから、任意後見契約を締結する必要性について検討する必要があるでしょう。

(司法書士・行政書士 三田佳央)