任意後見制度の必要性2

任意代理による代理権は、「本人の死亡」を消滅事由としていますが、「本人の判断能力の喪失・低下」を消滅事由としていないので、本人の判断能力が喪失・低下しても、任意代理関係は存続すると考えられています。しかし、このように考えると、本人の判断能力が喪失・低下した場合に、本人による代理人の監督が適切に行うことが困難となるため、代理人の権限濫用を防ぐことができなくなります。そこで、本人の判断能力が喪失・低下しても、任意代理関係が存続するという考え方に疑問が生じました。

この点については、原則として本人の判断能力の喪失に伴い任意代理による代理権は消滅するが、特約によって存続させることはできるとする見解があります。これは、「本人の死亡」によって代理権が消滅する場合と、「判断能力の喪失」の場合とは、本人が代理人をコントロールできない点において利益状況がきわめて類似しており、両者を区別する根拠がないからだとしています。判断能力が喪失してはいなくても低下して不十分な常況であれば、本人が代理人をコントロールできないことには変わりないので、喪失の場合と同様に考えることができると思われます。また、特約によって例外的に存続する代理権の範囲は、保存行為と利用・改良行為に限定すべきとしています。

「本人の死亡」が代理権の消滅事由とされているのは、代理の必要がなくなるからでありますが、それだけでなく、任意代理においては本人と代理人との特別の信任関係がその基礎にあるため、本人の死亡後に相続人についても代理させることは、本人の通常の意思には合致しないと考えられるからです。この点を強調するならば、「本人の判断能力が喪失・低下」した場合について代理させることが、本人の通常の意思には合致しないと考えられるのであれば、「本人の判断能力が喪失・低下」した場合には、原則として代理権は消滅するものと考えられると思われます。

ただ、この考え方によると、代理権の消滅時期が不明瞭になるおそれがあります。代理権の消滅事由である「本人の判断能力喪失・低下」した時期について、通常は明確に判定することが困難だからです。また、そもそも「本人の死亡」と「本人の判断能力の喪失・低下」という状況について、これらを類似する利益状況にあると考えられるだけの基礎があるといえるのかという疑問があります。すなわち、「本人の判断能力の喪失・低下」という状況では依然として本人は生存しているのであり、「本人の死亡」の場合にきわめて類似する利益状況と考えることには無理があるのではないかとも思われるからです。

(司法書士・行政書士 三田佳央)