任意後見制度の必要性1

任意後見制度は、本人が信頼できる第三者に対して、自分が認知症等により判断能力が低下した場合に備えて、そのような状況になったときにおける自分の生活・療養看護や財産に関する事務を委託して、その事務を処理するための代理権を与える制度です。

任意後見制度は、本人が委任者とし、第三者を受任者とする委任契約を締結することにより、利用することができます。任意後見契約は、本人の判断能力が低下し、家庭裁判所により任意後見監督人が選任された時に効力が生じます。

また、本人において判断能力が十分にあるときからも、受任者に財産管理等に関する代理権を与えることができます。これが財産管理等委任契約または任意代理といいます。高齢であることや身体的な理由により、判断能力が十分にあったとしても、信頼できる第三者に財産管理等の事務を委託したい場合などに利用されることが想定されます。

財産管理等委任契約と任意後見契約を同時に締結しておくことにより、判断能力が十分なうちから第三者に財産管理等の事務を委託し、判断能力が低下したときに任意後見契約を発効させて、引き続きその第三者に財産管理等の事務を任せることができるようになります。このような任意後見契約の形態を「移行型」といいます。

ただ、この移行型の任意後見契約においては、そもそも任意後見契約を締結する必要があるのかという問題があります。これは、代理権の消滅事由に「本人の死亡」はあるが「本人の判断能力の低下・喪失」がなく、また、財産管理等委任契約の代理権は、委任契約の終了によって消滅することになりますが、委任の消滅事由にも「本人の死亡」はあるが「本人の判断能力の低下・喪失」がないので、財産管理等委任契約を締結していれば、本人の判断能力が低下したとしても、財産管理等委任契約の効力は消滅しないため、受任者の代理権は消滅しないと考えられるからです。

しかし、本人の判断能力が十分にあれば受任者の事務処理を自ら監督することができますが、判断能力が低下してしまうと、受任者を適切に監督することが困難なものとなってしまい、受任者による代理権の濫用を防ぐことができなくなります。

そこで、本人の判断能力の低下・喪失が、委任契約により付与された代理権の消滅事由とすべきであるとの見解が主張されるようになりました。

(司法書士・行政書士 三田佳央)