遺産分割の解除

亡夫Aの相続人である妻B・子C・子Dが遺産分割協議をしました。その内容は、CがBを扶養したり介護したりするためにCが多額の財産を取得するというものでした。しかし、CはBへの扶養や介護をほとんどしませんでした。そこで、DはCの債務不履行を理由に遺産分割協議を解除して、再度の分割を主張しました。このDの主張は認められるでしょうか。

この点について、最高裁判所の判例は、共同相続人間において遺産分割協議が成立した場合に、相続人の一人が他の相続人に対してその協議において負担した債務を履行しないときであっても、他の相続人は民法541条によってその遺産分割協議を解除することができないとしています。これは、①遺産分割はその性質上協議の成立とともに終了し、その後はその協議によって債務を負担した相続人と債権を取得した相続人間の債権債務関係が残るだけであること、②一度成立した遺産分割協議について解除を認めると、遡及効を有する遺産の再分割を余儀なくされ、法的安定性が害されることになることが理由とされています。

では、相続人B・C・Dが合意により遺産分割協議の全部または一部を解除して、改めてその協議をすることはできるでしょうか。この点について、最高裁判所の判例は、民法541条による解除の場合とは異なり、共同相続人の全員が、すでに成立している遺産分割協議の全部または一部を合意により解除したうえで、改めて遺産分割協議をすることは、法律上妨げられるものではないとして、遺産分割協議の合意解除を認めています。これは、①合意解除においては、解除原因に制限はなく、相続人間に債権債務関係が存在することは前提となっていない(例えば、相続人全員が協議に錯誤があったことを認めてやり直す場合)こと、②共同相続人間においては、共同相続人間全員の合意であるため、その法的安定性を害することがなく、また、第三者との関係は、第三者を保護する規定などによりその法的安定性を図ることができることが理由と考えられます。

(司法書士・行政書士 三田佳央)