家族信託における受託者

信託は、本人から信託の目的に従って財産の管理・処分することを、特定の者を信じて委託するものです。信託では、本人のことを「委託者」といい、信託の目的に従って管理・処分される財産を「信託財産」といい、信託財産を管理・処分する特定の者を「受託者」といいます。家族信託においては、受託者を委託者の子にするケースが多いようです。

受託者は、信託財産の管理・処分その他の信託の目的の達成のため必要な行為をする権限を有します(ただし、信託契約などによりその権限に制限を加えることができます)。このことから、受託者は、信託事務を遂行する者として信託の中心的な役割を負う者であるといえます。そのため、受託者には、さまざまな義務が課せられています。その義務とは、①信託事務遂行義務、②善管注意義務、③忠実義務、④公平義務、⑤分別管理義務です。

①受託者は、信託の本旨に従い、信託事務を処理しなければなりません。これを、信託事務遂行義務といいます。「信託の本旨に従い」とは、「信託によって達成しようとした目的」のことをいいます。

②受託者は、善良な管理者の注意をもって、信託事務を遂行しなければなりません。これを、善管注意義務といいます。これは、信託事務の遂行にあたって、行われるべき具体的な行為の内容を決定する基準として作用するものです。善管注意義務は、個々の受託者の具体的な能力と切り離して客観的な義務の水準を定めるものです。

③受託者は、受益者のため忠実に信託事務を遂行しなければなりません。これを、忠実義務といいます。これは、受託者は、もっぱら受益者(信託事務の遂行によって利益を受ける者をいいます)の利益を図らなければならず、信託事務の遂行において、自己の利益を図ってはならないということです。

④受益者が二人以上ある信託においては、受託者は、受益者のために公平に信託事務を遂行しなければなりません。これを、公平義務といいます。

⑤受託者は、信託財産と固有財産や他の信託の信託財産とを、分別して管理しなければなりません。これを、分別管理義務といいます。これは、受託者は、信託財産につき、自らの利益のために行動することはできず、受益者の利益のために、信託財産の管理・処分をすることになるため、受託者は、信託財産を分別して管理しなければならないとされています。

このほか、受託者は、報告義務・帳簿等作成義務などの義務を負っています。

(司法書士・行政書士 三田佳央)