家族信託において受益者代理人の定めを設ける必要性

信託における受益者は、受託者の信託事務の遂行によって信託財産から利益を受ける主体です。このことから、受益者には、受託者を監督するための権利を有します(例えば、受益者は、受託者に対して信託事務や信託財産に関する報告を求めることができます)。

しかし、実務では、受益者がこの権利を適切に行使できない状況に陥ることがあります。例えば、受益者が認知症等によって判断能力が低下した場合です。このような場合に、受益者の代理人となるのが成年後見人です。成年後見人は、本人が精神上の障害により判断能力が低下した場合に、本人・配偶者・四親等内の親族などから家庭裁判所に後見開始の審判の申立てをすると、家庭裁判所の職権によって選任される法定代理人のことです。受益者が後見開始の審判を受けている場合は、成年後見人が法定代理人として財産管理をし、その一環として信託事務や信託財産について受託者に対して意思表示をするとともに、受託者を監督することになります。

しかし、受益者の成年後見人は、受託者に協力するとは限らないし、受益者やその親族などが後見開始の審判の申立てをしないケースも考えられます。本人の判断能力が低下したからといって、必ずしも後見開始の審判の申立てをしなければならないものではないからです。そこで、信託契約において、受益者代理人を指定する定めを設けておくべきなのです。

受益者代理人は、その代理する受益者のために受益者の権利に関する一切の行為をする権限を有する者であり、受益者に代わって受託者に対して信託に関するさまざまな意思表示をするとともに受託者を監督する役割を負う者といえます。

受益者代理人を選任するには、信託契約において受益者代理人を指定する定めを設けなければなりません。信託契約においてこの定めを設けない場合には、もはやその信託について受益者代理人を選任することはできません。裁判所によって受益者代理人を選任するといった手続が存在しないからです。

このように、家族信託においては、その契約で受益者代理人を指定する定めを設けておくことが不可欠であるといえます。受益者代理人を選任しておくことにより、受益者の利益を保護するとともに、信託事務を円滑に処理することが可能となり、受益者と受託者の双方にとって有益なことといえるでしょう。

(司法書士・行政書士 三田佳央)