里親制度の概要と課題

1 里親制度の概要

(1) 里親制度とは

 ① 里親になるには

家庭環境に恵まれない子を家庭で引き取って養育する制度として里親があります。里親になるには、保護を要する児童を養育することを希望する場合に、調査・研修を受けて里親名簿に登録する必要があります。

 ② 里親の種類

里親には、①保護を要する児童を一定期間養育する養育里親、②虐待されている児童や非行等の問題を有する児童、障害のある児童を受け入れる専門里親、③養子縁組によって養親となることを前提とする養子縁組里親、④扶養義務者が里親となる親族里親があります。

 ③ 養育費

養育里親の場合には、公費から養育費が支給されます。まず、里親手当として児童1人あたり約9万円が支給されます。次に、生活費として児童1人あたり5~6万円が支給されます。このほかに、医療費や教育費が支給されます。

(2) 里親登録の流れ

里親名簿に登録するには、まず、児童相談所に問い合わせをし、児童相談所にて制度説明を受けます。その後、児童相談所にて調査・研修と家庭訪問による調査があり、審査部会による審査を経て里親として認定されると、里親名簿に登録されます。制度説明から登録まで約6か月の期間を要します。

(3) 調査・研修

里親登録をするには、児童相談所による調査・研修を受ける必要があります。調査・研修は平日に行われ、研修は1日にわたって行われます。調査・研修の概要は下記のとおりです。なお、地域により異なる部分があります。

 ① 制度説明

児童相談所による調査・研修を受けるには、まず、児童相談所に出向いて制度説明を受けることになります。所要時間は約2時間です。この制度説明を受けるにあたって、事前に児童相談所に連絡して予約する必要があります。

 ② 成育歴調査

制度説明が終わると、成育歴調査を受けることになります。児童相談所に出向いて行われます。これは、里親登録を希望する者の生い立ちや家族との関係などを聞き取りによって調査するものです。所要時間は約2時間です。

 ③ 基礎研修

成育歴調査が終わると、基礎研修を受けることになります。児童相談所が指定する場所で行われます。この研修は、養育についての基礎知識を座学により学ぶものです。1日にわたって実施されます。

 ④ 家庭訪問

基礎研修が終わると、児童相談所による家庭訪問が行われます。これは、児童相談所の担当者が、里親登録を希望する者の自宅を訪問して、間取りや養育部屋などを確認するものです。

 ⑤ 児童相談所の会議

家庭訪問が終わると、児童相談所の会議にかけられます。

 ⑥ 登録前研修

児童相談所の会議を通過すると、登録前研修を受けることになります。児童相談所が指定する場所で行われます。この研修は、養育についての基礎知識をより広い範囲にわたって座学により学ぶものです。1日にわたって実施されます。

 ⑦ 施設実習

登録前研修が終わると、施設実習を受けることになります。児童相談所が指定する児童養護施設で行われます。この研修は、児童養護施設に出向いて見学することを主体とするものです。1日にわたって実施されます。

 ⑧ 登録前演習

施設実習が終わると、登録前演習を受けることになります。児童相談所が指定する場所で行われます。この研修は、今まで学んだ養育についての知識を技術として習得するものです。1日にわたって実施されます。

 ⑨ 登録書類提出

登録前演習が終わると、児童相談所に登録書類を提出します。提出する書類としては、①里親登録申請書、②戸籍謄本、③世帯全体の住民票、④所得を証明する書類(源泉徴収票など)、⑤里親登録を希望する者の履歴書、⑥宣誓書、⑦自宅の平面図、⑧研修修了証などがあります。

 ⑩ センター長訪問

児童相談所に登録書類を提出すると、管轄の児童相談センターの長による家庭訪問があります。これは、里親登録をする意思を最終的に確認するものです。

 ⑪ 審査部会

センター長訪問が終わると、児童相談所の審査部会での審査が行われます。これは、里親登録を希望する者について、里親登録の要件を充たしているかなどを審査するものです。

 ⑫ 登録

審査部会による審査に通過すると、里親名簿に登録されることになります。その後、登録会が実施されます。里親登録後は、里親委託の話が来るのを待つことになります。

(4) 里親登録の要件

里親名簿に登録するための要件として、①保護を要する児童の養育についての理解・熱意・児童に対する豊かな愛情を有していること、②経済的に困窮していないこと、③都道府県が実施する里親研修を修了したこと、④里親本人と同居人が欠格事由に該当しないことが挙げられています。親族里親の場合は、②の要件は不要とされます。欠格事由としては、児童の福祉に著しく不適当な行為をした者などが挙げられています。

2 里親制度の課題

(1) 調査・研修

 ① 日程調整

里親登録をするには、児童相談所が実施する調査・研修を受けなければなりません。この調査・研修は、児童相談所が実施している関係で、原則として平日に実施されています。また、研修は1日にわたって実施されています。そのため、平日に仕事などの用事があったとしても、数回は平日に休みを取るなどして日程を調整しなければなりません。仕事の内容や職場によりこのような日程調整が難しいこともあるでしょう。そのような場合だと、里親登録自体が困難なものとなってしまいます。

 ② 調査内容

里親登録をするには、児童相談所による調査には、成育歴調査や家庭訪問があります。また、登録書類を提出する際には、所得を証する書類や自宅の平面図を提出しなければなりません。これらの調査は何のために行われるのでしょうか。

児童相談所は、これらの調査の目的について「子どものため」であるとしています。里親制度は子どものための制度だからです。では、どのような生い立ちであれば、子どものための里親といえるのでしょうか。どのくらいの所得があれば、子どものために十分な所得といえるのでしょうか。どのような住まいであれば、子どものための住まいといえるのでしょうか。この点については、「子どものため」とはどういう意味なのかを明らかにしなければ、具体的なことは分からないでしょう。

児童相談所による調査には、里親登録をする意思や養育についての価値観なども含まれます。これは、里親は実子を養育する場合と異なり血縁関係がないので、子どもに対しての愛情の持ち方が実子を養育する場合と異なるからであると考えられます。もっとも、実子を虐待する親もいれば、血縁関係のない里子と絆の深い親子関係を築いている親もいるので、この違いは相対的なものであるといえるでしょう。

しかし、親の所得や住まいの間取りなどの外形的な部分については、実子の養育と里子の養育とで何か違いがあるのでしょうか。仮に、一定以上の所得のあることが子どものためであるというのであれば、所得の少ない夫婦が実子を養育することは、その子のためにはならないということになるのではないでしょうか。住まいの間取りについても同様のことがいえるでしょう。

このように、里親登録を希望する者が愛情をもって養育する者であるかを調査していることからすると、里親制度にいう「子どものため」には、子どもの幸せのためという考え方が含まれていると見ることができるでしょう。

これに対し、裕福な家庭で育てられる子どもが幸せであるとは限らないことからすると、所得や住まいの調査は子どもの幸せとは直結しないものだと言わざるを得ません。確かに、経済的に困窮している家庭では、子どもに最低限の養育をすることができなくなるかもしれません。それでは、子どもにとって不利益になってしまいます。また、その子どもに適した家庭に里親委託をする際には、それを判断する資料が必要であると考えられます。このことからすると、これらの事項について資料の提出を求めたり家庭訪問をしたりするのは、その子どもの養育に適切な環境を提供することができる環境であるか否かを判断する資料を収集するためであると考えられるでしょう。

ただ、里親委託をする段階で、里子となる子どもにとって適切な養育環境を提供できる夫婦であるか否かを判断することになりますが、どの程度の所得があり、どのような住まいであれば、その子どもの養育環境として適切なのかについて、どのように判断しているのかは明らかにされていません。また、このような外形的な要素でどこまで適切な養育環境であるか否かを判断することができるのでしょうか。

以上のことからすると、所得や住まいについては、自己申告で足りるとし、資料の提出や家庭訪問は不要であると考えることができるのではないでしょうか。

 ③ 研修の義務化

里親登録をするには、児童相談所が実施する研修を受けなければなりません。里親として里子を養育するにあたって、事前に養育についての基礎知識や技術を習得することは必要なことなので、里親登録にあたって研修を受けるようになっていることは望ましいことであるといえるでしょう。

これに対し、実子を養育する場合には、赤ちゃんのお世話について学ぶ場である「両親教室」などがありますが、必須とはされていません。また、子どもの養育までを対象とはしていません。養育について学ぶ場が子育てにとって有益な機会であることは、実子を養育する場合と里子を養育する場合とでは異ならないはずです。実施を養育する場合において、養育についての研修などの受講を義務化することは現実的ではないかもしれませんが、多くの両親が受講するように普及していくことが、より良い子育てにつながることでしょう。

(2) 里親委託

里親登録した後に、児童相談所から里親委託の話をされた場合には、その委託を受けるか否かの選択をすることになります。委託を受けるとその里子の委託がスタートします。

しかし、委託の話が来ても里子の年齢などが希望通りでないなど、里親と里子のマッチングが上手くいかず、なかなか里子の養育に至らないケースがあります。また、そもそも委託の話がなかなか来ないというケースもあるそうです。この背景には、里親制度が「子どものため」の制度であることを基準にマッチングを行っているからではないかと思われます。例えば、里子と里親のマッチングをする際に、里子と里親の年齢差を基準にしています。里子と里親の年齢が45歳までとし、里親の年齢は年上の方が基準とされます。これは、里子が成人したときに里親が高齢であると、それまでに里親が亡くなるなど里子の養育に支障をきたす可能性が高くなるからだとされています。ただ、この年齢差の基準はあくまで目安であるとされているようですが、この基準によってマッチングの運用がされると、40代後半の夫婦が新生児の里親を希望したとしても、その希望通りの里親となることは厳しいということになるでしょう。

里親制度は、子どものための制度であると言われます。それはその通りです。しかし、果たしてそれだけでしょうか。

里親制度は、里親を必要とする子どもと、そのような子どもを養育したいという夫婦が存在して初めて成り立つものです。「子どもを育てたい」というのは人間の最も根源的な本能の一つであると言われています。そして、どのような子どもを育てたいと思うのかは夫婦によりさまざまです。そのため、里親を必要とする子どもと、子どもを養育したいという夫婦をマッチングさせるという作業が生まれるのです。

夫婦が子どもの里親となるのは、その子どもを養育するためでなければならず、私利私欲のためであってはなりません。しかし、子どもを養育したいから里親になることは、決して否定できるものではありません。これは、子どものために里親になることと併存し得るものです。その子どもを養育することで、子どもを養育したいという想いを満たすことができるからです。このことを正面から認めないことには、里親を必要とする子どもと、子どもを養育したいという夫婦をマッチングさせるという作業は、なかなか上手くいかないのではないでしょうか。マッチングとは、需要と供給とを結び付ける作業だからです。

(3) 里親制度の普及

「里親制度は、子どもができない人のための制度ではない」言われることがあります。これは、子どもができない夫婦が不妊治療をしたが、それでも子どもができなかった場合に、里親登録をしようとする夫婦が少なくないからでしょう。

しかし、これは、里親制度を子どもができない夫婦のための制度と考えているわけではなく、そもそも里親制度を知ることなく不妊治療をし、その治療を断念することを検討している段階で里親制度のことを知ることが多いからではないでしょうか。すなわち、里親制度自体があまり知られていないのです。里親制度を一般的に知ってもらうための普及活動を展開することが必要といえるでしょう。

(司法書士・行政書士 三田佳央)