本人の死亡後における死後事務委任契約の解除

死後事務委任契約は、本人が死亡した時にその効力を生じます。そして、本人の死亡により相続人が本人の地位を承継するため、相続人がこの死後事務委任契約を解除することができると考えられそうです。委任契約は、当事者の双方がいつでも解除をすることができるからです。

しかし、相続人による死後事務委任契約の解除を認めてしまうと、相続人の意思によって本人の死後事務の遂行についての意思を反映させることができなくなり、死後事務委任契約の締結をしたことが無意味なものとなってしまいます。そこで、実務では、相続人からの解除を制限する特約を定めておくのが通常です。

では、もし、このような特約がない場合は、相続人によって死後事務委任契約を解除することができるのでしょうか。この点について、相続人による死後事務委任契約の解除は、原則として認められないとする裁判例があります。これによると、死後事務委任契約は、契約を履行させることが不合理と認められる特段の事情がない限り、本人の相続人が委任契約を解除して終了させることを許さない合意をも包含する趣旨と解されるからです。

上述の裁判例のいう相続人による死後事務委任契約の解除が認められる、契約を履行させることが不合理と認められる特段の事情とは、①その契約内容が不明確または実現困難である場合、②本人の地位を承継した者にとって契約内容を遂行するにあたって負担が加重である場合などを列挙しています。

もっとも、受任者が契約の内容どおりに死後事務を遂行していないなどの事由があれば、相続人から解除することが可能です。その際には、相当な期間を定めて催告をする必要があります。

なお、死後事務委任契約を解除すると、受任者はその後の死後事務を遂行する義務を負わなくなりますが、それまでにした死後事務の効力は失われません。委任契約の解除の効力は、将来に向かってのみ生じるからです。

このように、相続人による死後事務委任契約の解除は、特約がなくても原則として認められません。しかしながら、特約がない場合には、相続人とのトラブルが発生するおそれがあります。そこで、相続人による死後事務委任契約の解除を制限する特約を定めておくことをお勧めします。

(司法書士・行政書士 三田佳央)