死後事務委任契約において定める事項6

本人が借家に居住している場合において死亡したときは、その借家の明渡しをすることになる場合があります。借家の賃借人という地位は死亡により相続人に承継されます。そのため、借家の賃貸借契約を解約するかどうかは相続人が決定することになります。

しかし、相続人間で借家をめぐる方針が決まらない場合や、相続人が高齢である、または遠方に住んでいるなどの事情から、賃貸借契約の解約や明渡しの対応をするのが困難なことや、長時間を要することがあります。そこで、死亡後の居住用の借家の解約や明渡し事務をスムーズに行うためには、その事務を内容とした死後事務委任契約の締結をすることが有用です。

本人の死後に借家の解約と明渡しをスムーズに行うためには、死後事務委任契約を締結した時点で、賃貸人に対して、本人が死亡の場合には受任者が解約手続をする旨を伝えておくとよいでしょう。

本人が敷金を差し入れている場合、できるだけ速やかに解約をすることで敷金の残金が返戻される可能性があります。敷金の残金は、相続財産として相続人に引き渡すべきものなので、解約手続が遅れたために敷金の残金が減少すると、相続人とのトラブルになりかねません。

借家の明渡しをする際に問題となるのが、居室内の残置物の撤去についてです。これらの物は相続人に承継されることになるので、相続人に引き渡すことになります。そこで、相続人が複数いる場合には、どの相続人を引渡先とするのかを委任事項として定めておくとよいでしょう。

他方、本人が死後の残置物の廃棄を希望する場合であっても、相続人に形見分けの機会を提供するといった対応をしたほうがよいでしょう。相続人にとって価値のある物があるにもかかわらず廃棄してしまうと、相続人とトラブルになってしまうからです。

(司法書士・行政書士 三田佳央)