遺言の執行と相続手続との関係

遺言者の死亡時にその遺言の効力が生じます。その遺言の効力が生じたら、相続人ではない第三者に遺言者の財産を与えるような遺贈の場合、相続人または遺言執行者は、遺贈義務者として、遺言の執行をしなければなりません。例えば、その財産の引渡しや名義変更などです。この手続は、相続人と相続人ではない受遺者が共同してすることになります。また、遺言執行者がある場合は、遺言執行者と受遺者が共同ですることになります。例えば、遺贈を原因とする不動産の所有権移転登記は、相続人または遺言執行者と受遺者が共同して申請することになります。

遺言により子を認知した場合、遺言執行者は、その就職の日から10日以内に、戸籍係に届出をしなければなりません。認知は戸籍法の定めるところにより届出をすることによってすることとされているので、この届出は、遺言の執行ということになります。そのため、遺言執行者が届出人とされています。また、遺言により推定相続人を廃除する意思表示をした場合、遺言執行者は、遅滞なく、家庭裁判所に対して、その推定相続人の廃除の申立てをしなければなりません。なお、これらの場合において、遺言執行者がいない場合は、家庭裁判所に対し、遺言執行者選任の申立てをしなければなりません。

以上のような手続を、遺言の執行といいます。

これらに対し、法定相続分と異なる相続分を指定する遺言の場合は、遺言の効力が生じた時に、共同相続人はその指定された相続分に応じた権利を取得することになるため、遺言の執行をする必要がありません。また、特定の財産を特定の相続人に「相続させる」旨の遺言(これを「特定財産承継遺言」といいます。)の場合、最高裁判所の判例によると、特段の事情がない限り、遺産分割方法を指定したものと解され、直ちに当該財産が当該相続人に相続により承継されることになるため、遺言の執行をする必要がありません。しかし、これらの場合、相続登記などの手続をしなければ、法定相続分を超える部分について相続により権利を承継したことを、第三者に主張することができません。

また、未成年者に対して最後に親権を行う者が、遺言により未成年後見人を指定した場合、その指定された未成年後見人は、その就職の日から10日以内に、戸籍係に届出をしなければなりません。遺言の効力が生じた時に未成年後見人が就職することになるため、遺言の執行は必要ありません。しかし、未成年後見人が指定された旨を戸籍に記載するためには、戸籍係に届出をしなければなりません。

これらの手続を、実務上、相続手続と呼んでいます。

このように、遺言の執行をするには、その手続によって、誰がその手続をするかが異なります。遺言の執行をされる際には、弁護士や司法書士などの専門家に相談されることをお勧めします。

(司法書士・行政書士 三田佳央)