特定財産承継遺言とその執行

特定の相続人に対して特定の財産を「相続させる」旨の遺言を「特定財産承継遺言」といいます。このような遺言の効力について、最高裁判所の判例は、相続分の指定であることから、遺言者の死亡時に、直ちに当該財産は当該相続人に相続により承継されるため、相続登記の申請についても、遺言執行者と共同申請をする必要がなく、また遺言執行の余地がなく、遺言執行者は登記義務者でもないとしていました。しかし、平成30年の民法改正により、特定財産承継遺言があったときは、遺言執行者は、当該相続人を名義人とする登記申請などの行為をすることができるようになりました。

これに対して、財産の一定割合やすべての財産を「相続させる」旨の遺言は、「特定財産承継遺言」には該当せず、相続分の指定として扱われます。そのため、当該相続人に直接承継されることから、遺言執行者がいる場合であっても、遺言執行の余地がなく、当該相続人が単独で相続登記の申請をすることになります。

「相続させる」旨の遺言によって取得した不動産やその共有持分権について、最高裁判所の判例は、相続登記をしなくても第三者にその権利取得を主張することができるとしていました。しかし、平成30年の民法改正により、相続による権利の承継は、遺産分割によるものであるかどうかにかかわらず、法定相続分を超える部分については、登記を備えなければ、第三者にその権利取得を主張することができないとされました。また、令和3年の不動産登記法改正により、相続登記の申請が義務化されました(令和6年4月1日に施行されます。)。

このように、法改正により、相続登記の重要性が増すとともに、遺言執行者の役割もより重要なものとなったといえるでしょう。遺言を作成する際には遺言執行者を指定しておくことで、円滑かつ確実な遺言の執行を期待することができるでしょう。ただ、そのためにも、誰を遺言執行者として指定するのかが重要になります。遺言の作成を検討される際には、弁護士や司法書士などの専門家に相談されることをお勧めします。

(司法書士・行政書士 三田佳央)