自己破産における免責手続

多重債務者が自己破産手続開始を申し立てる動機は、通常、債務の免責を得ることにあります。免責を得ることができれば、債務の返済や支払いから解放されるからです。多重債務者の破産の中心的な機能は、破産手続そのものよりも、むしろ免責手続にあるといえるでしょう。免責は、経済活動に失敗した債務者に経済的な再出発の機会を与える手段と考えられています。

免責手続は破産手続と別個の手続とされていますが、自己破産手続開始の申立てがあった場合には、債務者が反対の意思を表示しない限り、同時に免責許可の申立てをしたものとみなされます。債務者の通常の意思を考慮したものです。免責許可の申立てをする場合には、債権者名簿を提供する必要がありますが、自己破産手続開始の申立ての場合は、破産手続開始の申立ての際に提出する債権者一覧表をもって代えることができます。

裁判所は、免責許可決定をすることの当否について、破産管財人や破産債権者が裁判所に対して意見を述べることができる1か月以上の期間を定めます。裁判所は、この期間を公告し、かつ、破産管財人や知れている破産債権者に通知します。

免責は、免責不許可事由がない限り、必ず許可されます。免責不許可事由としては、①財産の隠匿・損壊・不利益処分、②債務者の義務に属さない偏頗行為(特定の債権者に対して弁済するなど)、③消費・賭博等の射幸行為、④債権者を騙した詐術による借入れ、⑤財産帳簿等の書類や物件の隠滅・偽造・変造、⑥虚偽の債権者名簿の提出、⑦裁判所に対する説明の拒否・虚偽の説明、⑧不正の手段による破産管財人の職務妨害、⑧免責許可申立前7年以内の免責許可決定の確定、⑨破産手続中の義務違反行為などです。一般的には免責許可されることが多いですが、消費・賭博等の免責不許可事由が認められることもあります。ただ、免責不許可事由があっても、それが軽微なものである場合などは裁判所の裁量によって免責許可されることもあります。

免責許可決定は、確定するとその効力が生じます。免責許可決定が確定すると、破産者は、原則として、破産債権者に対する債務の全部についてその責任を免れます。免責許可決定がなされると、裁判所は、決定書が破産者や破産管財人に送達されます。その決定に対して利害関係人は即時抗告を提起することができます。即時抗告の期間は、免責許可決定の公告の日から2週間です。なお、租税・罰金・一定の損害賠償請求権などは非免責債権とされ、免責の効力は及びません。また、免責許可決定の効力は、破産者の保証人には及ばないものとされています。保証制度は、そもそも債務者の資力が危うくなったときに備えて利用されるものだからです。

(司法書士・行政書士 三田佳央)