自筆証書遺言とは

遺言には、自筆証書遺言と公正証書遺言があります。自筆証書遺言は、遺言者がその全文、日付及び氏名を自書し、これに印を押して作成します。相続財産の全部または一部の目録を添付する場合には、その目録については、自書することを要しないが、その目録の各ページに署名し、印を押さなければなりません。

自筆証書遺言は、自書できる人であれば、誰でも遺言書を作成できるので、簡単で便利で費用もかかりません。しかし、遺言書を保管する者が定められていないので、遺言書を紛失したり、遺言者の死後に偽造・変造や隠匿・破棄されたりするおそれがあります。また、内容が不明確であったり、方式違反をしていたりして、遺言の効力をめぐって紛争が生じることがあります。さらに、遺言書を執行するにあたって、家庭裁判所にて遺言書の検認をしなければなりません。これは、遺言書の現状を確認し、証拠を保全するための手続です。このため、遺言の執行までに時間を要することになります。なお、自筆証書遺言については、法務局に遺言書を保管することができます。この場合、検認は不要です。偽造・変造のおそれがないからです。

自筆証書遺言において定められている方式は、遺言者の真意を確保するために設けられたものです。遺言が、遺言者の死後に効力を生じるからです。そのため、方式違反の遺言は無効とされます。しかし、方式の遵守を厳格に判断すると、些細な違反で遺言が無効となり、かえって遺言者の意思に反することになります。そのため、実務では、方式の遵守よりも遺言者の意思を尊重する傾向があるといえるでしょう。

全文の自書については、カーボン紙を用いて複写の方法で記載した遺言について、自書の方法として認められたことがあります。疾病などのため手が震えて自力では筆記できない者が他人の補助を受けて遺言を作成した場合は、補助をした他人の意思が介入した形跡のないことが筆跡の上で判定できるときは、自書として認められます。

日付については、年月日が特定できればよいのだから、例えば、「2023年元日」などの記載でもよいです。しかし、「2023年1月吉日」では日の特定ができないので、日付を欠くものとして遺言は無効となります。遺言書が1日で完成しなかった場合は、日付を含めて遺言書全部を完成させた日を表示する必要があります。なお、日付を記載する位置については定められていないので、遺言書を封入している封筒の上に記載されてもよいとされています。

氏名については、遺言者の同一性が確認できればよいので、通称、雅号、ペンネーム、芸名でもよいとされています。

押印については、実印である必要はなく、認印や拇印などでもよいとされています。これは、押印は文書の正式性、確実性を示すために求められているからです。しかし、花押(署名の下に筆画を崩して簡略した字体で記したものをいいます。)は認められていません。押印の文化のない外国人が作成した遺言にサインはあるが押印がない場合において、例外的にその遺言が有効とされたことがあります。

自筆証書遺言において、加除その他変更をするには、遺言者がその場所を指定し、変更した旨を付記して署名し、その場所に印を押さなければなりません。しかし、この方法は厳格すぎて日本の文書作成の慣行になじまないことから、この方式に違反があっても、有効とされることがあります。例えば、明白な誤記の訂正については、この方式に違反があるからといって、その遺言が無効になるものではないとした最高裁判所の判例があります。

このように、自筆証書遺言の作成は、正しい知識と見識に基づいて作成しないと、死後に紛争を生じさせてしまったり、せっかく作成した遺言が無効となったりしてしまうことがあります。そのため、遺言の作成を検討する際には、弁護士や司法書士などの専門家に相談されることをお勧めします。

(司法書士・行政書士 三田佳央)