預貯金口座を信託財産とする家族信託1

最近、家族信託に関する相談が増えています。これは、親が高齢になってきており、認知症になったときなどに、財産の管理・処分や生活費・介護の費用(介護施設の利用料など)の工面といった、遠くない将来のことを不安になっている人が増えているからでしょう。

信託は、本人の所有する財産を信頼できる第三者に委託する制度である。信託をすると、その財産はその第三者(受託者といいます)の所有となりますが、受託者の固有財産となるわけではありません。つまり、受託者が自分のためにその財産を好き勝手に使うことはできないのです。受託者は信託の目的のために信託された財産(信託財産といいます)を管理・処分することになります。そのため、本人が認知症等により判断能力が低下しても、信託財産については、受託者が管理・処分することができるので、本人の判断能力の低下によって影響を受けないことになります。

また、信託財産は、本人(委託者といいます)の所有から離れます。信託財産は、「誰のものでもない財産」として、信託の中で扱われることになります。そのため、委託者が亡くなっても、信託財産は相続財産とはなりません。すなわち、委託者死亡後の信託財産の承継は、相続手続によるのではなく、信託の中で行われることになり、遺産分割協議の対象とはなりません。

このように、特定の財産を信託財産とすると、委託者が認知症等になって判断能力が低下したとしても、安定した財産の管理・処分ができるようになります。また、遺産分割協議の対象とならないので、相続人同士の関係性等により遺産分割協議が困難な状況であったとしても、円滑な財産の承継が可能となります。

そこで、親が子を受託者として、預貯金を信託財産とする信託をするということが考えられます。このような信託をすることによって、子が親の生活や療養看護のためにその財産を安定して管理することができ、親の生活を守ることができるようになります。たとえ、親が認知症等により判断能力が低下したとしても、受託者である子のみで金融機関と預貯金の取引が可能となります。

また、信託財産となった預貯金は遺産分割協議の対象とはならないので、たとえ、相続人となる子たちの関係性が良くないなど遺産分割協議をすることが困難な事情があったとしても、その預貯金を承継させたい者に円滑に承継させることができます。

このような、家族のための信託を「家族信託」といいます。

(司法書士・行政書士 三田佳央)