任意後見制度は、任意後見人の選任、代理権付与の範囲の決定、同意権・代理権が付与されないことなど、本人の自己決定の尊重に重きを置いている制度であるといえます。
しかしながら、この任意後見制度の利用は低迷しているのが実情です。これは、①必ずしも認知症になるとは限らないこと、②取消権を付与することが認められていないこと、③任意後見監督人の選任が必須とされていること、④任意後見契約は公正証書により締結しなければならないことなどが要因であると考えられます。
①人は必ず死を迎えますが、必ずしも認知症になるとは限りませんし、認知症になる蓋然性は決して高くないものと認識されているようです。そのため、認知症等になることに備えをしておこうという考えになりにくいのです。仮に、認知症になったとしても、法定後見制度を利用することができるので、任意後見制度を利用しようという意識がなかなか高まらないのかもしれません。
②任意後見契約では、任意後見人に対し、本人が自ら行った契約を取り消すことができる権限を付与することが想定されていません。そのため、本人が不要な商品の購入やサービスの利用をする契約を締結した場合において、取消権を行使して本人の財産を守るためには、法定後見制度を利用せざるを得ないのです。
③任意後見契約は、任意後見監督人が選任された時からその効力を生ずることになるので、必ず任意後見監督人を選任しなければなりません。これにより、家庭裁判所による任意後見人の事務の監督は、任意後見監督人を通じて間接的なものにとどめられているとされています。しかし、任意後見監督人が選任されるとその報酬が発生することになり、たとえ親族を任意後見人とする契約を締結したとしても、本人に経済的な負担が発生してしまいます。また、任意後見監督人に対する報告は3か月ごとなど短い期間で求められることが実務上多く、任意後見人の負担となると考えられているようです。
④任意後見契約を公正証書により締結しなければならないことについては、ハードルが高いと感じられるようです。そうだとすると、いかに優れた制度であったとしても、利用することに躊躇してしまう人が増えることになるでしょう。
(司法書士・行政書士 三田佳央)