預貯金口座を信託財産とする家族信託2

親が認知症等により判断能力が低下したときに備えて、その預貯金口座を信託財産として、子を受託者とする家族信託契約を締結することは、非常に有効な手段であると思われます。

信託口座を開設するメリットは、①受託者の預貯金との分別管理が可能、②信託の当事者である委託者や受託者が死亡しても口座が凍結されない、③差押えなど強制執行の対象とならないことです。

受託者は、信託財産を、受託者の固有財産と分別して管理しなければなりません。信託口座を開設すると、口座名義が「委託者○○○○受託者□□□□」などとなり、受託者の固有財産とは別の財産であることが明白となります。また、当事者が死亡しても凍結されないので、たとえ受託者が委託者よりも先に死亡したとしても、後継受託者が円滑に管理を引き継ぐことができます。さらに、信託財産は、委託者や受託者の固有財産ではないので、委託者や受託者の債権者から差押えなどの強制執行をされることがありません。このような機能を有する信託口座を「信託口口座」といいます。

しかし、実際は、そう簡単な話ではありません。なぜなら、金融機関において信託口口座を開設することが非常に困難だからです。

多くの金融機関が信託口口座の開設に消極的であるのが現実です。これは、金融機関の信託口口座に対する理解が十分にされていないこと、信託口口座を適正に管理運用することの負担が大きいことなどの理由が考えられます。たとえ、金融機関で信託口口座を開設することができるとしても、そのハードルは高いものとなっています。例えば、①信託契約書は公正証書で作成しなければならない、②弁護士や司法書士などの専門家が作成に関与した契約書でなければならない、③一定金額の金融資産(例えば、2,000万円以上)を預け入れること、④信託監督人、受益者代理人、後継受託者の定めがあることなどです。これらの要件は金融機関により異なります。

このように、預貯金を信託財産としようとしても、信託口口座を開設することは極めて困難であると言わざるを得ません。そこで、「信託専用口座」を開設することで、預貯金を信託財産とする方法が考えられます。

(司法書士・行政書士 三田佳央)