人が死亡すると、葬儀・火葬や埋葬などをすることになります。通常は、相続人がこれらを行うことが多いでしょう。しかし、相続人が存在しない場合や相続人と疎遠であったという場合もあるでしょう。また、遺言で祭祀承継者を指定する方法もありますが、祭祀承継者となった者に葬儀や埋葬の方法を強制することはできないため、本人の希望どおりの葬儀や埋葬がなされない可能性があります。そこで、本人が葬儀や埋葬の方法について強い希望がある場合には、これを死後事務とする死後事務委任契約を締結することにより、その希望どおりの葬儀や埋葬を受任者に実施してもらうことができるようになります。特に、相続人がいない人については、葬儀や埋葬に関する事項を死後事務とする死後事務委任契約を締結する必要性は高いといえるでしょう。
葬儀や埋葬は、本人の死亡後速やかに実施する必要があります。そこで、受任者が本人の死亡の事実をその時点で把握することができるようにするため、相続人となる者に対し、事前に葬儀や埋葬に関する事務の委任を受けていることを伝え、本人の死亡時に連絡を受けられるようにしておくとよいでしょう。
しかし、本人に相続人がいない場合など、相続人からの連絡を受けられない場合もあります。その場合には、本人と見守り契約や財産管理等委任契約を締結し、日常的に本人の健康状態を把握できるようにする方法があります。見守り契約とは、受任者が本人と定期的に面会し、本人の安否・生活状況・心身の状況を把握することを目的とする契約のことです。
また、本人が葬儀や埋葬について特定の寺院を指定する場合には、事前にその寺院に連絡をして、葬儀や埋葬に関する事務の委任を受けていることを伝えておくとよいでしょう。
受任者は、本人の死亡を確認したら、直ちに葬祭業者に連絡をして、葬儀などの日程を相談します。死後事務委任契約において、葬祭業者の定めがなければ、受任者が任意に葬祭業者を選定することになります。
また、本人に相続人がいる場合には、その相続人に対して葬儀などの日時・場所の連絡をします。本人の死亡により相続人はその地位を承継し、葬儀や埋葬の終了時には相続人にその経過や結果を報告しなければならないからです。
なお、火葬・埋葬の許可証の発行を役場に申請するには、死亡届の提出が必要となりますが、受任者が任意後見受任者になっていないなど、死亡届の提出の義務や権限がない場合には、その義務や権限のある者に死亡届の提出をしてもらう必要があります。
死後事務委任契約において預託金を設定している場合には、葬儀や埋葬の費用や報酬をその預託金から精算することができます。預託金を設定していない場合には、相続人対して費用と報酬の支払いを請求することになります。
(司法書士・行政書士 三田佳央)