Aが、子Bから虐待や重大な侮辱を受けていたり、Bに著しい非行があったりして、Bに自己の財産を相続させたくないと考えた場合、家庭裁判所に申立てをして、その主張が認められると、BがAの相続人としての資格を剝奪することができます。これを推定相続人の廃除といいます。子・直系尊属・配偶者には、遺留分(法定相続人に最低限保障されている相続分)が認められており、遺言をもってしてもこの遺留分を廃除することができません。そこで、遺留分を有する推定相続人に相続権を完全に認めないようにするためには、推定相続人廃除制度を利用することになります。また、遺言によって廃除の意思を表示することができます。この場合には、遺言執行者は、被相続人の死亡後、遅滞なく、推定相続人の廃除を家庭裁判所に申立てなければなりません。なお、家庭裁判所の管轄は、被相続人の住所地を管轄する家庭裁判所です。
家庭裁判所に推定相続人の廃除の申立てをすると、家庭裁判所から、書面で事情の説明を求める書類が送付されますので、その書面に申立てに至る事情を記載して家庭裁判所に提出します。その後、家庭裁判所から申立人と面談をする日程を調整するために連絡があります。申立人は期日に家庭裁判所に出向いて聴取に応じることになります。申立人が高齢等で家庭裁判所に出向くことが困難な事情があれば、事前に家庭裁判所に相談しておくとよいでしょう。申立人の自宅に調査官が訪問して聴取するという扱いがなされたことがあります。
上記の手続により審理が終了すると審理が決定します。審判が確定すると審判書が申立人に送付されます。廃除の審判が確定することによって、その相続人はそのときから相続権を失います。遺言による廃除の場合は、被相続人が死亡した時に遡って相続権を失います。廃除された相続人に子がいる場合、その子は代襲相続人となります。
なお、被相続人はいつでも家庭裁判所に申立てをすることによって、推定相続人の廃除を取り消すことができます。推定相続人の廃除は、被相続人の意思に基づく制度だからです。
(司法書士・行政書士 三田佳央)