死後事務委任契約においては、本人の様々な死後事務について信頼できる第三者に委任することができます。しかし、本人の死亡により相続が開始し、その権利義務は相続人に承継されるため、死後事務委任契約を締結する際には、相続人との関係に十分に配慮する必要があります。
例えば、預貯金の解約を死後事務とする死後事務委任契約を締結することは避けるべきです。本人の死亡により預貯金は相続財産となり相続人が承継するため、その預託金を解約して払戻しを受けることができるのは相続人だからです。もし、その第三者に預貯金の解約をしてもらいたいのであれば、遺言を作成してその第三者を遺言執行者に指定するという方法があります。遺言執行者は、相続財産中の預貯金については、払戻しの請求・解約の申入れをすることができるからです。なお、このような遺言を作成するのであれば、預貯金の口座を特定したうえで特定の相続人に承継させることを内容とすることになります。
このように、法律で遺言において定めることができるとされている事項については、遺言で定めることとして、死後事務委任契約において定めることは避けるべきでしょう。
これに対して、遺言において定めることができる事項以外の死後事務については、死後事務委任契約の中で自由に取り決めておくことができます。また、遺言において定めることができる事項以外の事項については、遺言の付言事項において定めることができますが、これには法的な拘束力が認められません。そこで、このような事項については、死後事務委任契約の中で死後事務として定めて第三者に委任しておくことが有用です。例えば、喪主や葬儀について遺言の付言事項として定めたとしても、その定めには法的効力が生じないため、その者が遺言の付言事項に定められたとおりの内容で葬儀をするとは限らないので、これらの事務を死後事務とする死後事務委任契約を締結しておくのです。
(司法書士・行政書士 三田佳央)