共同相続における相続登記の申請をするには、通常は、共同相続人全員により遺産分割協議をし、その旨を記載した遺産分割協議書を提供します。しかし、遺産分割について、共同相続人において協議が成立しなかった場合や、協議をすることができなかった場合(一部の相続人が協議自体に応じないときや、連絡が取れないときなど)には、家庭裁判所に対して、遺産分割調停の申立てをすることができます。この遺産分割調停において、共同相続人全員の合意があるときは、その旨が調停調書に記載され、その調停は成立します。
これに対し、共同相続人全員の合意がなかったときは、遺産分割審判に移行し、家庭裁判所において審理された後に審判がなされ、その旨が審判書に記載されます。
遺産分割調停がなされた場合における相続登記の申請には、その遺産分割に関する調停調書を添付することを要し、遺産分割審判がなされた場合には、その遺産分割に関する審判書と確定証明書を添付することを要します(遺産分割審判は、不服申立期間が経過することにより確定するため、確定証明書が必要です。)。
なお、これらの相続登記の申請には、原則として、戸籍謄抄本の提供を要しないとされています。調停や審判による分割手続は、家庭裁判所において戸籍謄抄本により共同相続人全員を確定したうえで、その共同相続人全員の参加を要件としているので、調停調書や審判書により相続関係を明らかにすることができるからです。ただし、調停調書や審判書に被相続人の死亡年月日が明示されていないときは、登記年月日を明らかにするため、その死亡を証する戸籍謄抄本を提供しなければなりません。
共同相続人の中に、家庭裁判所において相続放棄の手続をした者がある場合には、その者にかかる相続放棄申述受理証明書を提供して、その者を除く他の共同相続人により相続登記を申請することになります。相続放棄をした者は、初めから相続人とならなかったものとみなされるからです。
なお、相続放棄申述受理証明書と同等の内容を記載した「相続放棄等申述の有無についての照会に対する家庭裁判所からの回答書」や「相続放棄申述受理通知書」を提供することにより、相続登記の申請をすることができるようです。相続放棄申述受理通知書は、家庭裁判所が、その相続放棄の申述を受理した旨を申述書に記載したときに、申述者に通知するために送付される書面です。相続放棄申述受理証明書は、相続放棄申述受理通知書が送付された後に、家庭裁判所に対して申請することにより取得することができる証明書です。
相続放棄申述受理証明書等を提供しない場合において、一部の相続人を除く共同相続人により相続登記の申請をしたとしても、その申請は補正されない限り却下されます。
相続登記の申請をする際には、被相続人の登記識別情報または登記済証を提供することを要しません。相続登記の申請は、登記権利者と登記義務者による共同申請によるものではなく、登記権利者である相続人による単独申請によるものだからです。
(司法書士・行政書士 三田佳央)