公正証書遺言とは、遺言者が公証役場に出向くか、公証人に出張を求めて、公証人が作成する遺言のことです。公正証書遺言は、次の手順によって作成されます。
①証人二人以上の立会の下に、②遺言者が遺言の内容を公証人に口授(くじゅ。口頭で伝えることです。)します。その後、③公証人が遺言者の口述を筆記し、これを遺言者及び証人に読み聞かせ、または閲覧させます。④遺言者及び証人が筆記の正確なことを承認した後に、各自これに署名し、印を押します。ただし、遺言者が署名することができない場合は、公証人がその事由を付記して署名に代えることができます。⑤公証人が、その遺言が民法の定める方式に従って作成された旨を付記して、これに印を押します。
口がきけない者は、公証人及び証人の前で、遺言の趣旨を通訳人の通訳により申述し、または自書することにより、口授に代えなければなりません。また、耳が聞こえない者は、公証人は、筆記した内容を通訳人の通訳により遺言者または証人に伝えて、読み聞かせに代えることができます。公証人はこのような方式に従って遺言を作成したときは、その旨を遺言に付記しなければなりません。
なお、次に掲げる者は、証人になることができません。①未成年者、②推定相続人・受遺者、これらの配偶者・直系血族。
以上のような手順によって公正証書遺言が作成されると、その原本は公証役場に保管され、遺言者には正本が交付されます。公正証書遺言によれば、偽造・変造や紛失のおそれはありません。また、公証人が作成するため、内容が不明になったり、方式違反をしたりするおそれが少ないといえます。しかし、公証役場の手数料がかかり、資格のある証人を探す手間が生じます。また、公正証書遺言であっても、後に遺言の有効性が問題になることがあります。
実務では、まず、公証役場に出向いて、公正証書遺言の作成について相談します。その際に、戸籍謄本や不動産の登記事項証明書など必要な書類を提出します。そして、遺言者から聴取した内容をもとに遺言公正証書の案を作成し、遺言者に内容を確認させます。問題がなければ原本を作成し、期日に遺言者と証人を呼び出します。遺言者が出頭できないときは、公証人が遺言者のもとに出張します。期日において、公証人、遺言者と証人以外の者を退席させ、遺言公正証書を読み聞かせます。その内容が正確なことを承認した後に、遺言者と証人は署名押印します。その後、公証人が署名押印し、原本は公証役場に保管され、遺言者に正本と謄本が交付されます。
なお、直接公証役場に相談するのではなく、弁護士や司法書士などの専門家に遺言の作成を相談し、その弁護士や司法書士が公証役場との間で公正証書遺言の作成を進めるやり方も、多く行われています。このやり方であれば、遺言者は、公証役場とやり取りする手間を省くことができます。法律的知識がなく、公証役場と何度もやり取りをすることが、大きなストレスになる場合や、公証役場とやり取りする時間を確保することが難しい場合には、弁護士や司法書士などの専門家に相談されるとよいでしょう。
(司法書士・行政書士 三田佳央)