被相続人が死亡し、相続が開始すると、相続人は、原則として、被相続人に属した一切の権利義務を承継することになります。この一切の権利義務には、個別の動産・不動産などの権利、債権・債務などが含まれます。また、被相続人の死亡によって発生する権利も、特段の事情のない限り、当然に相続されます。例えば、損害賠償請求権や慰謝料請求権です。
被相続人の一身に専属したものは、相続人に承継されません。これを、一身専属権といいます。一身専属権とは、個人の人格や個人としての法的地位と密接不可分の関係にあるため、他人による権利行使や義務履行を認めることが不適当な権利義務をいいます。例えば、労働契約における労働債務、制作や芸術作品を作る債務、扶養請求権、将来の婚姻費用分担請求権、親権、生活保護受給権、年金受給権、著作者人格権などです。
死亡退職金は、受給権者が固有の権利として取得するものであり、相続財産には属しません。死亡退職金は、遺族の生活保障を目的とするような受給権者の定め方をしているからです。遺族年金も、受給権者が固有の権利であり、相続財産には属しません。ただし、特別受益として扱われることがあります。この場合には、相続分から特別受益とされた財産の価額が控除されて、具体的な相続分が算出されます。
生命保険については、受取人が被保険者(被相続人)自身である場合(貯蓄型の生命保険)には、相続財産となります。被相続人の死亡により、その相続人が受取人としての地位を承継するからです。これに対して、受取人が相続人中の特定の者である場合には、受取人固有の権利であり、相続財産とはなりません。受取人が保険契約に基づいて取得ものだからです。また、受取人を「相続人」としている場合も、保険契約に基づく相続人固有の権利となるため、相続財産とはなりません。ただし、特別受益として扱われることがあります。
祖先の祭祀のための財産は、慣習に従って祭祀主宰者が承継します。祭祀のための財産とは、例えば、系譜(家系図など)、祭具(位牌、仏壇仏具、神棚、十字架など)、墳墓(墓地としての敷地も含まれます)などです。ただし、被相続人に指定された者がいるときは、その者が祭祀主宰者となります。なお、慣習が明らかでないときは、家庭裁判所が、祭祀主宰者を定めます。
(司法書士・行政書士 三田佳央)