相続財産清算人の職務

被相続人が亡くなって相続が開始したが、相続人の存在が明らかでないときは、相続財産は法人とみなされます。そして、家庭裁判所は、利害関係人または検察官の申立てによって、相続財産清算人を選任します。この際に、家庭裁判所は、6か月以上の期間を定めて相続財産清算人選任の公告をします。これによって、相続財産の処理手続を進めることができるようになります。

家庭裁判所が、選任の公告をしたときは、相続財産清算人は、すべての相続債権者及び受遺者に対し、2か月以上の期間を定めて請求権申出の公告を官報でします。また、知れている相続債権者及び受遺者に対しては、各別に催告をしなければなりません(催告書を送付してします。)。

相続財産清算人は、この期間内に申出た相続債権者及び受遺者その他知れている相続債権者及び受遺者に対し、それぞれの債権額の割合に応じて弁済をすることになります。ただし、相続債権者に対して弁済してから、受遺者に対して弁済することになります。この弁済をするために、相続財産を売却する必要があるときは、相続財産清算人は、競売の申立てをすることができます。ただし、予納金(数十万円程)を予納することができないときは(例えば、預貯金の残高が少額である場合などです。)、この競売の申立てはできないとするのが、実務での取り扱いです。また、相続財産を任意に売却して換価して、弁済をすることもできます。この場合には、権限外の行為(処分行為)であるため、家庭裁判所の許可を得る必要があります。弁済をして、家庭裁判所が決定した相続財産清算人の報酬を相続財産から受領し、相続財産が残らなかった場合は、その時点で相続財産清算人の職務が終了します。相続財産が残った場合は、その相続財産を国庫に引き継がせることにより、相続財産清算人の職務が終了します。実務では、相続財産を国庫に引き継がせることが想定される場合には、事前に各地域の理財局に相談するものとされています。

相続財産清算人は、半年に1回程度、管理報告書、財産目録、管理事務経過一覧表を作成して、家庭裁判所に提出しなければなりません。相続財産を売却して換価したときなどにも、家庭裁判所に臨時報告をしなければなりません。相続財産清算人としての職務が終了したときは、家庭裁判所に終了報告をすることにより、手続が終了します。また、相続財産清算人は、相続債権者や受遺者から請求があるときは、相続財産の状況を報告しなければなりません。実務では、相続債権者から電話で相続財産の状況について問い合わせがあり、それに対して弁済の見通しなどを返答するという形で行われています。

なお、相続債権者及び受遺者に対して弁済するために、相続財産を売却する必要がある場合において、売却することが極めて困難な事情があり、弁済の見通しが立たないときには、家庭裁判所は、相続財産清算人による管理を継続することが不相当であると判断し、その選任の審判を取り消して、相続財産清算人の職務を終了させることがあります。この場合、相続財産は法人のままとなりますが、相続財産清算人がいない状態となり、相続財産は「塩漬け状態」となります。この相続財産の処理手続を再開するには、相続債権者や受遺者が、家庭裁判所に対して、利害関係人として、相続財産清算人の選任の申立てをすることになります。

このように、相続財産清算人の職務は、複雑で専門的なものであることから、実際には、相続財産清算人(従来の「相続財産管理人」を含みます。)には、弁護士や司法書士などの専門家が選任されています。

(司法書士・行政書士 三田佳央)