借入金債務の消滅時効が完成している場合において、債務者が時効の援用をすれば、確定的に借入金債務が時効により消滅することになります。しかし、債務者が、借入金債務の消滅時効が完成していることを知らずに、その借入金債務の存在を認めてしまうということが、実際に起きています。この場合に、債務者は、借入金債務の消滅時効を援用することができるでしょうか。
この点について、最高裁判所の判例は、消滅時効が完成した後に、債務者が、たとえ消滅時効完成の事実を知らなかったとしても、その債務の存在を認めた場合には、その債務の消滅時効の援用をすることは許されないとしています。債務者が債務の存在を認めた場合、相手方は、債務者はもはや消滅時効の援用をしないと考えるであろうから、債務者の時効の援用を認めないことが、信義則に照らし、相当であるからです。
このように、債務者は、借入金債務について、消滅時効が完成していることを知らなかったとしても、その債務の存在を認めてしまうと、その後、債権者から請求された時などに、消滅時効の援用をすることができなくなります。そうなってしまうと、債権者から訴えられたり、財産を差し押さえられたりするおそれがあります。そのため、借入金の返済で悩んでいる方は、ます、弁護士や司法書士などの専門家に相談されることをお勧めします。
(司法書士・行政書士 三田佳央)