成年後見人による取消権の行使と本人による詐術

成年後見人は、本人がした法律行為を取り消すことができます。しかし、本人が行為能力者(単独で法律行為ができる者)と信じさせるため詐術を用いたときは、その行為を取り消すことができません。詐術によって本人が行為能力者であると法律行為の相手方に信じさせたような場合には、本人がした法律行為につき取消権の行使を認めて保護することは適当ではないからです。

「詐術を用いた」とは、どのような意味でしょうか。最高裁の判例は、制限行為能力者(成年後見人等が付されている者等)の単なる黙秘は詐術に当たらないが、制限行為能力者であることを黙秘していた場合でも、それが制限行為能力者の他の言動などと相まって、相手方を誤信させ、または誤信を強めたと認められるときは、詐術に当たるとしています。制限行為能力者の保護と取引の安全との調和を図るためです。

詐術があったとしても、相手方が制限行為能力者であることを知っていた場合には、成年後見人は取消権を行使することができます。制限行為能力者であることを知っていた相手方を保護する必要がないからです。

(司法書士・行政書士 三田佳央)