任意後見契約とは

任意後見制度は、本人が、その判断能力が十分あるうちに、後見人となるべき者と任意後見契約をすることにより、本人の判断能力が低下したときに、任意後見監督人が選任されると、その後見人となるべき者が本人の任意後見人となり、任意後見契約によって付与された代理権を行使することにより、本人の生活、療養看護や財産管理を支援するものです。ではここでいう、任意後見契約とは、どのようなものでしょうか。

任意後見契約とは、本人が、後見人となるべき者(任意後見受任者という。)に対し、精神上の障害により判断能力が不十分な状況における自己の生活、療養看護及び財産の管理に関する事務の全部または一部について代理権を付与する委任契約であって、任意後見監督人が選任された時からその効力が生じる旨の特約を付したものをいいます。すなわち、任意後見契約には、次のような要素が含まれていることになります。

① 任意後見契約は、民法上の委任契約の一類型にあたることから、その契約の成立や効力については、任意後見契約に関する法律に定められている場合を除き、民法の規定が適用されます。そのため、例えば、任意後見人が報酬を受け取るためには、任意後見契約によって任意後見人の報酬について特約を定める必要があります。

② 任意後見契約により任意後見人に付与される代理権は、本人の生活、療養看護及び財産の管理に関する事務の全部または一部についてですので、財産の管理に関する事務についてのみ代理権を付与することもできます。本人の必要に応じて代理権を付与することができるのが、任意後見契約の特徴です。

③ 任意後見契約には、本人の判断能力が低下したときに、家庭裁判所が、任意後見監督人を選任した時からその効力が生じる旨の定めがなければなりません。任意後見制度は、任意後見監督人の選任を通じて家庭裁判所が関与して、任意後見人の代理権の行使を監督する仕組みになっているため、家庭裁判所により任意後見監督人が選任された時から、任意後見契約の効力が生じることとし、任意後見人による権限の濫用を防止する趣旨です。このことから、「任意後見監督人が選任された時からその効力が生じる」旨の定めと異なる特約を定めても、その特約は無効であると考えられます。

④ 任意後見契約は、公証人が作成する公正証書により契約書を作成することが要件とされています。公正証書により契約書が作成された後に、公証人の登記所への嘱託により、任意後見契約が登記されることになります。

(司法書士・行政書士 三田佳央)