任意後見制度とは

民法が規定する法定後見制度(補助・保佐・後見)は、本人の判断能力が低下してから、家庭裁判所に、法定後見開始の申立てをします。そして、家庭裁判所は、要件を満たしている場合に、法定後見開始の審判をして、職権で後見人等を選任します。後見人等の権限は、保佐では代理権について、補助では代理権と取消権について、本人に必要な範囲で付与できますが、保佐の取消権と後見の代理権と取消権の範囲はあらかじめ法律により定められています。また、家庭裁判所の審判によらなければ後見人等に権限は付与されません。

このような法定後見制度では、後見人等の選任やその権限について、本人の自己決定を尊重するものになっていないことや、本人の行為能力が制限されることになるとこから、本人の意思が十分に反映されていない内容となっていることが課題とされています(本人の判断能力が低下している状況のため、やむを得ないことですが。)。そこで、本人の判断能力が十分あるときに、判断能力が低下したときに備えて後見人を選定し、その者と必要最小限の代理権を付与する契約をする制度が、任意後見制度です。

法定後見制度と任意後見制度との違いは、下記のとおりです。

① 法定後見制度では、本人の判断能力が低下してから、制度を利用するための手続きに着手することになりますが、任意後見制度では、本人の判断能力が十分なときに、後見人となるべき者と契約するという形で、制度を利用するための手続きに着手することになります。

② 法定後見制度では、本人の判断能力が低下していることから、後見人等の選任は家庭裁判所の職権によりなされることになりますが、任意後見制度では、本人自ら後見人となるべき者を選定し、その者と任意後見契約をすることになります。

③ 法定後見制度では、後見人等の権限は法律により定められていたり家庭裁判所の審判により付与されたりしますが、任意後見制度では、本人と後見人となるべき者との間で締結する任意後見契約によって、後見人に付与される代理権が決定されます。

④ 法定後見制度では、補助人に同意権・取消権が付与されない場合を除き、本人の行為能力は制限されますが(制限行為能力者)、任意後見制度では、後見人には代理権を付与することはできますが、同意権・取消権を付与することができないため、本人の行為能力が制限されることはありません。

(司法書士・行政書士 三田佳央)