信託は、その終了事由が発生すると終了します。信託が終了すると、信託に関する債権債務を清算し、残余財産の帰属者に残余財産を交付します。これを「信託の清算」といいます。
信託の終了事由としては、①信託の目的を達成したとき、またはその目的を達成することができなくなったとき、②受託者が受益権の全部を固有財産で有する状態が1年間継続したとき、③受託者が欠けた場合であって、新しい受託者が就任しない状態が1年間継続したとき、④信託財産について破産手続開始決定があったとき、⑤信託行為において定めた事由が発生したとき、などです。また、委託者と受益者は、いつでも合意により信託を終了させることができます。信託を設定した委託者とその利益を享受する受益者とが一致する場合には、その信託を終了させることが合理的だからです。
信託が終了した後は、受託者が清算受託者として信託の債権債務を清算し、残余財産の帰属者に残余財産を交付して、信託の清算を結了させます。清算受託者は、信託の清算のために必要な一切の行為をする権限を有します。残余財産は次に掲げるいずれかの者に帰属することになります。①信託行為において残余財産受益者となるべき者として指定された者、②信託行為において帰属権利者となるべき者として指定された者です。これらの者の指定がなかったときは、委託者またはその相続人が帰属権利者となります。
委託者の死亡は信託の終了事由とはなっておらず、仮に信託行為において委託者の死亡を信託の終了事由と定めていたとしても、信託財産は委託者の固有財産が独立しているため、委託者が死亡しても委託者の遺産とはなりません。したがって、委託者の死亡により信託が終了したとしても、信託財産については相続手続をするのではなく、清算受託者により信託の清算をして帰属権利者等にその信託財産を交付することになります。
(司法書士・行政書士 三田佳央)