遺言を作成する際に、遺言執行者を指定することができます。遺言執行者とは、その遺言の内容を実現する者のことです。例えば、預貯金の相続手続をしたり、その他の財産を相続人に引渡したりすることなどです。遺言執行者は、必ず指定しなければならないものではありません。遺言執行者を指定しなかった場合には、相続人がその遺言の内容を実現していくことになります。ただ、相続人が高齢であったり多数存在したりするなど、相続が発生したときに遺言の内容の実現を円滑に行うことが困難になりそうな事情がある場合には、遺言執行者を指定しておくと、円滑に相続手続を進めることが期待できます。
遺言執行者には、遺言の内容を実現するために、遺言の執行に必要な一切の権利義務が認められています。具体的にどのような権利義務を有するかは、遺言の内容によって定まることになりますが、平成30年の民法改正によってその内容が明文化されたり、従来の取扱いが変更されたりしましたので注意が必要です。
遺言によって相続人以外に財産を承継させることを遺贈といいますが、この遺贈の場合においては、遺言執行者のみがその遺贈を実現するための権限を有します。
相続登記をする権限については、従来は最高裁判所の判例によって、遺言執行者には認められず、相続人自ら登記手続をする必要があるとされていました。しかし、今回の改正によって、遺言の内容として特定の遺産を共同相続人に承継させる旨が定められている場合には、遺言執行者に相続登記をする権限が認められます。「その他の不動産については○○○○に相続させる」というような包括的な定めの場合には、遺言執行者に相続登記をする権限は認められないようなので注意が必要です。
その他、預貯金については、払い戻しの請求や解約の申入れをすることができます。
なお、この相続登記と預貯金に関する遺言執行者の権限についての扱いは、令和元年7月1日以降に作成された遺言について適用されます。それよりも前に作成された遺言に係るその執行については従来通りの扱いになりますので、遺言書の日付を確認するようにしましょう。