意思能力、判断能力、行為能力について

成年後見制度は、精神上の障害により判断能力が低下した本人に代わって、成年後見人が財産管理や医療・看護・日常生活に関する事務を行うものです。判断能力とは、契約等の法律行為の結果について利益・不利益を判断する能力のことで、法律上は「事理を弁識する能力(事理弁識能力)」と規定されています。この判断能力すなわち事理弁識能力が充分に備わっていないと、自分に必要な商品を購入したりサービスを利用する手続ができないおそれがあります。また、自分に必要のない商品を購入したりサービスを利用する手続をしたりするおそれもあります。成年後見制度は、このような判断能力を充分に備えていない者を保護するための制度です。

また、意思能力のない者がした法律行為は、法律上無効なものとして扱われます。意思能力とは、契約等の法律行為の結果について認識し、判断する能力のことです。自分の行為の結果について認識して判断できる者が、自ら判断して法律行為をしたからこそ、その行為に基づいて法律効果の発生が認められるのです。

ただ、この意思能力がなかったことを証明することは困難なことが多いです。この証明ができなければ、その行為は有効なものとして扱われ、意思能力のない者が不利益を被るおそれがあります。また、意思能力の有無は外形的に分からないので、取引をする相手方を保護する必要もあります。そこで、一定の類型に該当するものが、その行為を取り消すことができるという形で、自ら行為ができる能力を制限して意思能力のない者を保護するとともに、取引の安全を図ったものが制限行為能力者制度です。自ら行為ができる能力を行為能力といい、その能力が制限された者を制限行為能力者といいます。成年後見制度は、本人の行為を取り消すことができるとされているので、制限行為能力者制度ということになります。

判断能力の有無は個々の法律行為とは関係なく判断するものであり、どの程度の判断能力を有しているのかが問題なるのに対し、意思能力の有無は個々の法律行為との関係で判断するものであり、その有無のみが問題なり程度は問題にならないものです。例えば、判断能力の有無は、日常的な行為の判断はできるか、重要な法律行為の判断はできるかという視点で判断するのに対し、意思能力の有無は、日用品の購入、不動産の購入、保証人になるという個々の法律行為について意思能力の有無をそれぞれ判断することになります。したがって、判断能力がない場合には意思能力もないことになりますが、判断能力があっても法律行為によっては意思能力がないとされることもあります。このように、判断能力と意思能力とは異なる概念として規定されています。判断能力は本人が保護するに値するか否かを判断するものであり、意思能力は法律行為の有効性を判断するものといえるでしょう。

判断能力はその程度が問題になることから、成年後見制度は、その判断能力の程度に応じて、補助、保佐、後見の3つの類型を定めており、それぞれ自ら行為ができる範囲が異なります。