所有権の効力(物権的請求権)

(1) 物権的請求権の必要性

所有権が侵害されたときには、所有者は侵害者に対して不法行為による損害賠償請求をすることによって、保護を受けることができます。しかし、所有者としては金銭による賠償にとどまらず、物を直接取り返したり、所有権の侵害を排除したりすることを認めなければ、所有権があるといっても余り意味がなくなってしまう。

そこで、明文の規定はないものの、所有権には所有物の支配を他人が正当な権原妨げる場合、またはそのおそれがある場合、所有者がその他人に妨害または危険の廃除を求める権利が認められています。この権利を物権的請求権といいます。

物権的請求権には、その侵害の態様に応じて、返還請求権(物を占有する者に返還を求める権利)・妨害排除請求権(占有を奪う以外の方法で妨害する物に妨害の除去を求める権利)・妨害予防請求権(妨害を生じさせるおそれがある者に予防措置を求める権利)の3種類があります。

(2) 物権的請求権の要件

物権的請求権は、所有物の円滑な支配が妨げられただけで当然に発生します。以下、権利ごとに要件を見ていきます。

 ① 返還請求権の要件

返還請求権の要件は、所有者が物の占有を奪われていることです。もっとも、奪われるといっても、物理的に奪われる必要はありません。本来あるべき占有がないだけでよく、その原因も問われません。例えば、所有者が他人に本を貸したが、相手期限が過ぎても返さないというときなどです。返還請求権の相手方は、現に目的物を占有している者です。土地の場合は、例えば正当な権原なく他人の土地の上に建物を所有する者です。この場合、土地の所有者は建物収去と土地の明渡しを請求することになります。

判例は、この建物を所有する者がたとえ建物の所有権を他人に譲渡しても、自らの意思で取得した建物の所有権の登記名義を保有する限り、建物収去・土地明渡しの義務を免れることはできないとしています。これは、土地所有者が建物譲渡人に対して所有権に基づき建物収去・土地明渡しを請求する場合の両者の関係は、土地所有者が地上建物の譲渡による所有権の喪失を否定してその帰属を争う点で、あたかも建物についての物権変動における対抗関係にも似た関係というべきであり、建物所有者は、自らの意思に基づいて自己所有の登記を経由して保有する以上、土地所有者との関係においては、建物所有権の喪失を主張できないというべきだからです。

 ② 妨害排除請求権の要件

妨害排除請求権の要件は、所有物の行使が占有の喪失以外の事情によって権原なく妨害されていることです。例えば、土地の上に他人が権原なく自動車を置いている場合や、無効な抵当権設定登記を抹消していない場合などです。妨害排除請求権の相手方は、現に妨害を生じさせている者です。

 ③ 妨害予防請求権の要件

妨害予防請求権の要件は、所有権の侵害のおそれがあることです。例えば、隣地の所有者が境界に沿って深く土地を掘り下げたため、こちらの土地が崩れる危険が生じた場合などです。妨害が現実に生じることは必要ありません。なお、妨害の危険性が請求の相手方の行為によって生じたことも必要ないとされています。

(3) 請求権の内容

 ① 問題点

物権的請求権は、所有者が円満な所有物の支配の回復または侵害防止のために必要となる行為を相手に求めるものです。では、何を請求する権利でしょうか。これには、相手に行為を請求する権利(行為請求権)なのか、それとも、所有者が円満な所有物の支配の回復のために必要となる行為を認めるように相手に請求する権利(忍容請求権)に過ぎないのか、という問題があります。

例えば、Aが所有する甲土地の上に、Bが所有する乙自動車が放置されていた場合、AがBに対して乙の引取りを請求することができるのか、それとも、Aが乙を撤去することをBに認めるように請求できるに過ぎないのかということです。

 ② 考え方

この点、物権的請求権は、行為請求権であると考えるべきです。これは、所有者に十分な法的保護を与えるべきだからです。すなわち、所有者には所有権を円滑な行使が法によって認められており、その行使が妨げられたのならば回復を求める権利があるからです。したがって、乙がBの行為によって甲土地の上に放置された場合、Aは、Bに対し、乙の引取りを請求することができます。この場合、その費用は乙が負担することになります。

しかし、例えば、乙を盗んだCが、乙を甲土地の上に放置した場合、AはBに対して乙の引取りを請求できそうであるが、逆にBもAに対して所有権に基づいて乙の返還を請求できそうです。仮にこれを認めると、Aの妨害排除請求権とBの返還請求権が衝突し、収拾がつかなくなります。

そこで、この場合には、物権的請求権は忍容請求権であると考えます。そうすれば、Aが自ら乙を除去すること、または、Bが自ら乙を引き取ることになり、以上のような衝突は生じません。この場合、その行為にかかった費用は、Cに対して損害賠償請求をして回収することになります。

このように、物権的請求権は行為請求権であるのが原則ですが、請求の相手方の行為によらずに所有権の侵害が発生した場合には、忍容請求権であると考えるべきです。

(4) 権利行使期間

所有権に基づく物権的請求権は永久に存続するとされています。これは、所有権には消滅時効がないからです。

(参照条文)民法709条、177条、166条2項

(参考判例)大判昭和12年11月19日民集16巻1881頁、最判平成6年2月8日民集48巻2号373頁(民法判例百選Ⅰ(第9版)47事件)

(参考文献)内田貴「民法Ⅰ(第4版)総則・物権総論」(東京大学出版会、2008年)367頁以下

佐久間毅「民法の基礎2物権(第2版)」(有斐閣、2019年)305頁以下

(司法書士・行政書士 三田佳央)