占有権2(占有権の移転・承継)

(1) 占有権の移転

 ① 占有権の取得方法

占有の取得方法として4つの方法が規定されています。これらは、占有の訴えの基礎となる占有を取得する方法として意味があるほか、動産の物権変動における対抗要件として重要な意味があります。

 ② 現実の引渡し

占有権の譲渡は、占有物の引渡しによってします。これを現実の引渡しといいます。物を文字通り引き渡すことであって、動産では最も普通であり明白な占有の取得方法といえます。不動産の場合は、通常は家の鍵を渡したり、権利証を渡したりして行います。

 ③ 簡易の引渡し

譲受人またはその代理人が現に物を所持する場合には、占有権の譲渡は、当事者の意思表示のみによってすることができます。これを簡易の引渡しといいます。例えば、賃借人が賃貸人から目的物を譲り受けるときに、当事者の意思表示のみによって目的物の占有を移転する場合です。この場合、賃貸人から賃借人に目的物を移転するのに、いったん目的物を賃貸人に返して、それから現実の引渡しをするのが面倒だからです。意思表示のみによって占有が移転しますが、もともと占有していた者に占有が移転するので問題ないのです。

 ④ 占有改定

代理人が自己の占有している物を以後本人のために占有する意思を表示したときは、本人は占有を取得します。これを占有改定といいます。例えば、A(代理人)が自分の家をB(本人)に譲渡し、同時にBから借りて住み続けることにした場合、Aが以後Bのために占有する意思を表示すれば、それだけでBに占有が移転します。この場合、本来ならば、まずAがBに建物を引渡し、それからAが賃借して再びBから引き渡しを受けることになりますが、これを簡略化することが認められているのです。

もっとも、Aの意思表示は、特別な意思表示が必要なのではなく、賃貸借契約をすることの表示でよいとされています。ここで必要とされているのは、間接占有関係の発生を正当化する法律関係の存在なのです。

 ⑤ 指図による占有移転

代理人によって占有をする場合において、本人がその代理人に対して以後第三者のためにその物を占有することを命じ、その第三者がこれを承諾したときは、その第三者は占有権を取得します。これを指図による占有移転といいます。例えば、A(本人)がC(代理人)に貸していた家をBに譲渡する場合、AがCに対して以後B(第三者)のために占有すべき旨を命じ、B(Cではありません)がこれを承諾すれば、Bに占有が移転します。Cの承諾は必要ありません。ただ、BC間に間接占有関係が発生することをCが知る必要があるので、AからCへの指示(通知)が占有移転の要件とされているのです。

(2) 占有権の承継

 ① 占有期間の合算

以上の4つの方法のいずれかで占有の移転があった場合、現在の占有者は、自己の占有のみを主張するほかに、前の占有者の占有を併せて主張することができます。これは、取得時効を主張する際に意味のある規定です。例えば、AがBに不動産を譲渡して引き渡し、占有の移転が行われたところ、Aが9年、Bが12年占有したとすると、Bは短期(10年)の取得時効の要件を充たしていなかったとしても(Bが占有の開始の時点で善意・無過失の要件を充たしていなかったときなど)、BはAの占有を合算して長期(20年)の取得時効を主張することができます。

 ② 瑕疵ある占有の承継

前の占有者の占有を併せて主張する場合には、その瑕疵(かし)をも承継します。これが問題となるのはもっぱら取得時効との関係においてです。瑕疵とは、善意・無過失、平穏、公然の要件を欠く占有のほか、所有の意思のない占有も含まれます。先の設例でいえば、Aが悪意の占有だとすると、BがAの占有を併せて主張する場合には悪意という瑕疵も承継します。

短期の取得時効の要件である善意・無過失は、占有の開始時点で善意・無過失であれば良いと考えられています(後に悪意に変わってもよいのです)。短期の取得時効は、取引の安全を図る制度だからです。

また、BがAの占有を承継した場合に、Aが占有を開始した当初に善意・無過失であれば、Bはそれをそのまま主張することができるとするのが判例です。これは、悪意であるBが善意であるAの占有を承継した場合には、その時点でもとの善意の占有者が悪意になったのと同様であると考えられるからです。

 ③ 相続による占有の承継

占有権の承継には、売買などの特定承継だけでなく、相続などの包括承継も含まれます。相続人は、一方で被相続人の占有を相続により当然に承継するものの(観念的承継)、他方で独自の占有をするに至る場合もあります(相続人の占有の二面性)。そのため、相続人自身の占有のみを主張することも、被相続人の占有の承継も主張することができます。相続人の観念的承継が認められるのは、これを認めないとたまたま相続人が相続財産を事実上所持していた場合とそうでない場合との扱いの違いが大きすぎるからです。

被相続人の占有が観念的に相続人に承継されただけの場合には、相続人の占有の性質は、被相続人の占有の性質によって当然に決まります。これに対し、相続人が現実に物の支配を始める場合には、相続人が被相続人と異なる性質のものとして占有を始めることがあります(例えば、相続人Bが被相続人Aの建物に移り住んで自己の物として占有を始めた場合などです)。この場合には、新たな権原によって、被相続人から承継された他主占有が相続人のもとで自主占有に転換することがあるとするのが判例です。そして、相続によって他主占有(所有の意思のない占有のことです)が自主占有(所有の意思のある占有のことです)への転換が認められるのは、相続人による事実上の支配が外形的客観的にみて独自の所有の意思に基づくものと認められる事情のあるときであるとされています。この場合の相続人の独自の所有の意思の認定も、具体的事実から評価されることになります。この具体的事実は、相続人が立証しなければなりません。相続人が新たな事実的支配を開始したことによって、従来の占有んぼ性質が変更されたのであるから、その事実の存在は、取得時効の成立を主張する相続人が立証すべきと考えられるからです。

(参照条文)民法178条、182条1項2項、183条、184条、187条1項2項

(参考判例)最判昭和53年3月6日民集32巻2号135頁(民法判例百選Ⅰ(第9版)42事件)、最判昭和37年5月18日民集16巻5号1073頁、最判昭和46年11月30日民集25巻8号1437頁、最判平成8年11月12日民集50巻10号2591頁(民法判例百選Ⅰ(第9版)63事件)

(参考文献)内田貴「民法Ⅰ(第4版)総則・物権総論」(東京大学出版会、2008年)410頁以下

佐久間毅「民法の基礎2物権(第4版)」(有斐閣、2026年)298頁

(司法書士・行政書士 三田佳央)