(1) 所有権の取得原因
所有権は、売買や贈与などの契約や相続によって取得することが多いです。契約や相続によって他人の所有権に基づいて取得することを承継取得といいます。これに対し、他人の所有権に基づかないで取得することを原始取得といいます。ここまで、所有権について解説してきましたので、ここでは原始取得について解説していきます。
原始取得には、時効取得・即時取得・無主物先占・遺失物拾得・埋蔵物発見・添付があります。即時取得については、占有の箇所で解説します。そこで、まず、所有権の原始取得の中で最も重要な時効取得について解説し、その後に、それ以外の原始取得について解説します。
(2) 取得時効
① 取得時効とは
Aがマイホームを建てるためにBから甲土地を購入し、自分の土地だと信じて乙建物を建てて住んでいたところ、Cから甲土地は自分のものでBは無権利者だったと主張してきた場合、Aは取得時効の要件を充たしていれば、甲土地の所有権を主張することができます。これが取得時効です。このように、取得時効は占有を継続することで他人の物の所有権を取得する制度なのです。
② 要件
取得時効は、①所有の意思をもって、②平穏に、かつ、公然と、③他人の物を、④10年間ないし20年間占有することによって生じます。
(ア) 「所有の意思」のある占有(自主占有)
「所有の意思」とは、権利の性質から客観的に判断して所有者としての所持であることをいいます。これを自主占有といいます。例えば、泥棒には所有の意思はあるが、賃借人には所有の意思はない(これを他主占有といいます)とされます。
(イ) 平穏・公然
「平穏・公然」とは、暴力的に占有を奪うことなく、かつ、占有を隠匿していないことです。
(ウ) 取得時効の対象となる「物」
自己の所有物について、さらに取得時効によってその所有権を取得することはあり得ないので、条文上は「他人の物」が要件とされています。しかし、判例は、自己の物についても取得時効が成立することを認めています。これは、取得時効は、当該物件を永続して占有するという事実状態を、一定の場合に、権利関係にまで高めようとする制度であるから、所有権に基づいて不動産を永く占有する者であっても、その登記を経由していない等のために所有権取得の立証が困難であったり、所有権の取得を第三者に主張することができなかったりする場合において、取得時効による権利取得を主張できると考えることが制度本来の趣旨に合致するものといえるからです。
(エ) 時効期間
㋐ 20年の時効
20年の占有がある場合には、悪意で占有を開始したときでも時効取得することができます。悪意とは、自分に所有権がないことを知っていることを意味します。自分の占有期間だけでは20年に充たないときは、前の占有者の占有を合わせて20年を超えることを主張することができます。
㋑ 10年の時効
10年の取得時効の場合は、その占有の開始の時に、善意であり、過失がなかったことが必要です。これは、10年の取得時効は、取引の安全を保護するための制度だからです。善意・無過失とは、自分に所有権があると信じ、かつそう信じることに過失がないことを意味します。したがって、上記の設例で、売主Bが無権利者であることに通常なら気づくはずなのにAが気付かなかった場合や、Bが無権利者であることを知りつつAがマイホームを建てたときには、10年の時効を主張することはできません。しかし、占有が20年間継続していれば、たとえ善意・無過失でなくても20年の時効を主張することができます。
(オ) 占有の継続
占有者が任意にその占有を中止したり、他人によってその占有を奪われたりしたときは、時効は中断します。これを自然中断といいます。これは、何人に対する関係でも効力を生ずる中断です。
(カ) 時効の援用
取得時効においても、占有者が時効の援用をしなければ、時効取得の効力を主張することができません。時効の援用には相対的な効力しかありません。
③ 立証の緩和
(ア) 要件の推定
取得時効の要件の立証は容易ではありません。例えば、10年・20年といった長期間にわたって所有の意思をもって占有していることや、10年も昔の占有開始時の善意・無過失であったことなどをどのように証明するのかが問題となります。そこで、これらの要件については立証を緩和されています。
まず、「占有者は、所有の意思をもって、善意で、平穏に、かつ、公然と占有をするものと推定する」とされています。つまり、無過失以外の要件はすべて推定されており、推定を覆そうとする相手方の方で、所有の意思がなかったことや、悪意であったことなどを証明する必要があります(立証責任の転換)。
さらに、占有の継続については、「前後の両時点において占有をした証拠があるときは、占有は、その間継続したものと推定する」とされています。例えば、2010年1月1日と2020年1月1日の占有の事実を立証すれば、10年間の占有が推定されます。
(イ) 所有の意思の推定
相手方が占有者の「所有の意思」がないことを証明することについて、判例は、占有者がその性質上所有の意思のない権原(賃貸借など)に基づき占有を取得した事実が証明されるか、または外形的・客観的にみて占有者が他人の所有権を排除して占有する意思を有していなかったものと解される事実(例えば、占有者が占有中に真の所有者であれば通常はとらない態度を示したり、所有者であれば当然とるべき行動に出なかったりしたなど)が証明されるときは、占有者の内心の意思にかかわらず、その所有の意思は否定されるとしています。
また、判例は、所有権移転登記手続を求めなかったことや、固定資産税を負担しなかったことをもって、外形的・客観的にみて占有者が他人の所有権を排除して占有する意思を有していなかったものと解される事実(他主占有事情)として十分であるとはいえないとしています。これらの事情は、必ずしも所有者として異常な態度とはいえないからです。
(ウ) 無過失の立証
以上の要件と異なり、無過失は推定されません。したがって、占有者は、客観的状況からみて、疑いを抱かないのが当然であるという事情を証明しなければなりません。例えば、登記が売主名義ではなく第三者名義になっていた場合、買主はその理由を確認しなければ過失ありとされるでしょう。
④ 効果
(ア) 原始取得
占有者が時効取得すると、その所有権を原始取得すると考えられています。すなわち、占有者Aは、もとの所有者Bからその所有権を引き継ぐのではなく、時効取得によってAが所有権を取得することの結果として、もとの所有者Bは所有権を失うことになります。もっとも、Aはその所有権の取得を第三者に対して主張するには登記をしなければなりません。また、この登記はBからの所有権移転登記をすべきものとされています。
(イ) 所有権取得の時期
占有者は、占有開始の時に原始取得したものとされます。これは、時効の効力は、起算日にさかのぼるからです。
(3) その他の原始取得
① 先占・拾得・発見
(ア) 先占
所有者のいない動産は、所有の意思をもって占有することによって、所有権を取得します。例えば、川で魚を釣った場合です。これを無主物先占といいます。
所有者のいない不動産は、国庫に帰属します。
(イ) 遺失物拾得
遺失物は、遺失物法の定めるところに従い公告をした後3か月以内に所有者が判明しないときは、その物を拾得した者がその所有権を取得します。遺失物法は、所有者が現れたときの拾得者に対する謝礼の額についても定めています。
(ウ) 埋蔵物発見
埋蔵物とは、土地その他の物の中に隠れていて所有者が誰かわからない物をいいます。
埋蔵物は、遺失物法の定めるところに従い公告をした後6か月以内に所有者が判明しないときは、その物を発見した者がその所有権を取得します。ただし、他人の所有する物の中から発見された埋蔵物については、その物を発見した者とその他人が等しい割合で所有権を取得します。
化石のような所有者がいない物の場合は、無主物先占として扱われます。
② 添付
(ア) 概観
添付とは、所有者の異なる物が一緒になったときや、他人の物に加工を加えたとき、それが新たな所有権の取得原因となるかどうか、なるとしたらどのような要件でなるのか、所有権を失う者にどのような手当てをするのか、といったことを定めたもののことです。添付には、付合・混和・加工の3種があります。
(イ) 付合
付合には、不動産の付合と動産の付合があります。
㋐ 不動産の付合
不動産の所有者は、その不動産に従として付合した物の所有権を取得します。「従として付合した」とは、分離が不可能であるか、または分離により不動産や付着した物が著しく損傷する場合や、分離に過分の費用を要するため分離が不相当である場合であるとされています。例えば、家の壁に他人のペンキを塗った場合、建物を増改築した場合、他人の土地に作物を植えた場合です。
ただし、権原によってその物を附属させた他人の権利を妨げないとされています。権原とは、付合する物の所有権を留保する権利のことです。例えば、賃借権、地上権、永小作権などです。判例は、借家人が、増築について家主の承諾を得て借家に増築をした場合、その増築部分について借家人に権利が認められるには、その増築部分が独立性を有していることを要するとしています。これは、物を附属した者の権利を妨げないということは、その物を不動産とは別個独立に取引することを認めるということだからです。
㋑ 動産の付合
動産の付合は、所有者を異にする数個の動産が付合して一つの物(これを合成物といいます)となって、損傷しなければ分離することができなくなったり、分離するのに過分の費用が必要になったりした場合のことです。例えば、自分の船に他人のエンジンが溶接された場合です。
動産の付合の場合、合成物の所有権は、主たる動産の所有者に帰属します。付合した物の主従の区別をすることができないときは、付合の時における価格の割合に応じて合成物を共有することになります。
㋒ 混和
混和とは、もとの物の識別ができなくなった場合のことです。例えば、液体が混ざり合った場合などです。この場合における所有権の帰属は、動産の付合の場合と同様です。
㋓ 加工
加工とは、他人の動産に工作を加えた場合のことです。例えば、他人の木材に彫刻師が彫刻をほどこした場合などです。この場合における加工が加えられた物の所有権は、材料の所有者に帰属するのが原則です。しかし、工作によって生じた価格が材料の価格を著しく超えたときは、加工者が所有権を取得します。
また、加工者が材料の一部を提供した場合は、その材料の価格に加工によって生じた価格を加えたものが他人の材料の価格を超えたときに限り加工者が所有権を取得します。なお、建築途上においていまだ独立の不動産に至らない状態(建前)において、第三者が材料を提供して工事をほどこし、独立の不動産である建物に仕上げた場合には、その建物の所有権の帰属は、これと同様に決定されるとするのが判例です。これは、材料に対してほどこされる工作が特段の価値を有し、仕上げられた建物の価格が原材料のそれよりも相当程度増加するような場合には、むしろ加工の規定に基づいて所有権の帰属を決定するのが相当だからです。
(参照条文)民法162条1項2項、187条2項、186条1項2項、164条、145条、144条、239条1項2項、240条、241条、242条、243条、244条、245条、246条1項2項
(参考判例)最判昭和42年7月21日民集21巻6号1643頁(民法判例百選Ⅰ(第9版)41事件)、最判昭和58年3月24日民集37巻2号131頁、最判平成7年12月15日民集49巻10号3088頁、最判昭和46年11月11日判時654号52頁、最判昭和44年7月25日民集23巻8号1627頁(民法判例百選Ⅰ(第9版)69事件)、最判昭和54年1月25日民集33巻1号26頁(民法判例百選Ⅰ(第9版)68事件)
(参考文献)内田貴「民法Ⅰ(第4版)総則・物権総論」(東京大学出版会、2008年)379頁以下
佐久間毅「民法の基礎2物権(第2版)」(有斐閣、2019年)173頁以下
四宮和夫・能見善久「民法総則(第9版)」(弘文堂、2018年)443頁以下
(司法書士・行政書士 三田佳央)
