(1) 序説
売買契約が締結されると、売主から買主に目的物の財産権が移転します。この財産権とは主に所有権のことを指します。そこで、今回は、所有権とはどのような権利なのかを述べていきます。
(2) 全面的支配権
所有者は、法令の制限内において、自由にその所有物の使用・収益・処分をする権利を有します。これは、所有者の所有物に対する権利が所有権であり、それは、所有物を全面的に支配する権利であることを現れであるといえます。すなわち、所有者は所有権の権能(権利を主張・行使することができる能力のことです)の一部を他人に与えることができます。例えば、所有する土地に他人にその土地を使用させるために地上権を設定したり、他人の債権を担保するために抵当権を設定したりすることです。しかし、この地上権や抵当権などの権利が消滅すれば、所有権は再び元の全面的支配権に戻ります。これを、所有権の弾力性といいます。
このように、所有者にはその所有物に対する全面的な支配権が認められていますが、これには、「法令の制限内」という制限が付されています。これは、所有権に内在する当然の制約を免れないことを現したものです。
(3) 土地所有権の及ぶ範囲
土地の所有権は、法令の制限内において、その土地の上下に及びます。「上」とは土地の上空のことであり、「下」とは地下のことです。したがって、地中に存する物は(土・岩石・地下水など)、原則として土地所有者の所有物ということになります。
ただ、上下といっても、無限に認められるわけでなく、土地利用の利益が認められる範囲でのみ及ぶと考えられています。これは、土地所有権は、土地の利用を保障するための権利だからです。
(4) 相隣関係
① 意義
所有権の内容として、隣接する土地所有者相互の関係(これを相隣(そうりん)関係といいます)を調整するための規定があります。これは、隣接する土地どうしの間では、一方の土地の利用が、他方の土地の有効な利用を妨げる結果となることがあり、土地が有効に活用されないことは社会的損失にもなることから、とくに隣接する土地相互の利用の調整という観点からの制限を定めたのである。所有権に内在する制約だと考えられます。
相隣関係の規定は、隣地使用に関するもの、水に関するもの、境界に関するもの、境界を超えた竹木に関するもの、境界線付近の工作物に関するものに分類されます。以下では、比較的問題となった二つの制度について述べていきます。
② 袋地所有者の通行権
他の土地に囲まれて公道に通じない土地(これを袋地といいます)の所有者は、その土地を囲んでいる他の土地を通行して公道に出ることができます。このような権利が認められなければ、その土地を有効に活用することができず無価値同然となり、社会的損失となるからです。
この場合には、通行の場所・方法は、必要な限度で他の土地のために損害が最も少ないものを選ばなければなりません。また、通行する他の土地の損害に対して償金を支払わなければなりません。
数人が共有して所有している土地を分割したことによって公道に通じない土地が生じたときは、その土地の所有者は、他の分割された土地(これを残余地といいます)のみを通行することができ、この場合には償金を支払う必要がありません。これは、分割の際に公道に通じない土地を所有することになる者のために、通行権について配慮するのが当然だからです。土地の一部が譲渡された場合も同様です。
では、ある土地が甲土地と乙土地に分割され、甲土地が売却された後に乙土地も売却された場合において、甲土地の譲受人は乙土地を通行することができるでしょうか。判例は、乙土地が譲渡されても通行することができるとしています。これは、相隣関係に関する規定は土地の利用の調整を目的としたものであるから、この通行権は残余地自体に課せられた負担と考えるべきであり、第三者に売却されても消滅しないからです。
③ 境界付近の建築
建物を建築するには、境界線から50㎝以上の距離を離さなければなりません。これは、隣地する土地の一方が先に境界線に接して建物を建築すると、他方の所有者さまざまな制約を生じさせてしまうからです(例えば、建築のために自分の土地に空き地を確保せざるを得なくなる、日照や通風の確保が困難となるなどです)。
ところが、建築基準法63条は、「防火地域または準防火地域にある建物で、外壁が耐火構造のものについては、その外壁を隣地境界線に接して設けることができる」と規定されています。そこで、両者の優先関係が問題となります。この点について、判例は、建築基準法63条は、その規定が適用される建築の場合には、民法の規定の適用が排除される旨定めたものと解するのが相当であるとしています。これは、同条は、防火地域または準防火地域における土地の合理的ないし効率的な利用を図るという見地などに基づいて相隣関係を規律する趣旨で、その各地域内にある建物で外壁が耐火構造のものについては、その外壁を隣地境界線に接して設けることができることを規定したものと解すべきだからです。すなわち、建築基準法63条は、民法の規定の特則を定めたものだということです。
(参照条文)民法555条、206条、265条、369条、207条、210条1項、211条1項、212条本文、213条1項2項、234条1項、建築基準法63条
(参考判例)最判平成2年11月20日民集44巻8号1037頁(民法判例百選Ⅰ(第9版)67事件)、最判平成元年9月19日民集43巻8号955頁
(参考文献)内田貴「民法Ⅰ(第4版)総則・物権総論」(東京大学出版会、2008年)361頁以下
佐久間毅「民法の基礎2物権(第2版)」(有斐閣、2019年)165頁以下
(司法書士・行政書士 三田佳央)
