① 権利能力とは
(ア) 権利能力の意義
私権の享有は、出生に始まります。これは、人は出生によって当然に権利能力を取得するという意味です。権利能力とは、権利・義務の主体となりうる資格のことです。権利能力を有するからこそ、契約によって権利を取得し義務を負うことができるのです。すべての人間は、生まれながらにして平等の権利能力を有するとされています。ただし、外国人は、一定の場合には、権利能力を制限されています。
以上にみてきた「人」は、人間のことですが、これを「自然人」と呼びます。このように、わざわざ人間のことを自然人と呼ぶのは、これ以外にも権利能力有する者が存在するからです。それは、一定の要件を充たした団体やまとまった財産が権利能力を取得する場合であり、法律上「人」としての地位を認められた主体であるから法人と呼ばれています。自然人と法人の両者を合わせた上位概念を「人」といいます。
(イ) 権利能力の始期
自然人は、いつ権利能力を取得するでしょうか。これは、出生によって権利能力を取得するのが原則です。ただし、いくつかの重要な問題に関しては、胎児について例外が認められています。
㋐ 出生の時点
では、出生とはいつの時点のことをいうのでしょうか。出生は時間がかかるものであり、出生過程のどの時点を出生とするかが問題となるのです。これについては、胎児が母体から全部露出した時点で、権利能力を取得すると考えられています(全部露出説)。これは、出生の時点を明瞭にするためです。
㋑ 胎児に関する例外
胎児は、相続については、すでに生まれたものとみなされます。これは、例えば胎児の父が死亡する時に、胎児が父を相続できないとすると、同じく父の子でありながら、父が死亡した時点ですでに出生している子は相続し、まだ出生していなかった胎児はやがて生まれてくることが予想されるのに相続できないことになり、不公平だからです。相続の場合のほか、不法行為・遺贈の場合についても、胎児はすでに生まれたものとみなされます。
もっとも、胎児の間に母親を法定代理人として損害賠償請求はできないとするのが判例です。したがって、胎児が生まれてから母親が代理して損害賠償請求をすることになります。すなわち、胎児が生まれてきた場合に、遡って権利能力があったものとみなされるのです。
(ウ)権利能力の終期
㋐ 死亡による終了
自然人の権利能力は死亡によって終了します。死亡は、脈拍停止・呼吸停止・瞳孔散大の3徴候で判断されるのが一般的です。脳死をどのように扱うのかという問題があります。
㋑ 死亡の認定の困難さを救済する制度
死亡は、医師の死亡診断書または死体検案書によって認定されます。しかし、この認定が困難な場合が少なくありません。このような場合に対処する制度として、次のようなものがあります。
(A) 認定死亡
水難・火災その他の事変によって死亡した者について、その取り調べをした官庁または公署は死亡の認定をして、死亡地の市町村長に報告しなければなりません。これを認定死亡といいます。これは、死亡の蓋然性が高い場合に、一応死亡として取り扱うものとする便宜的な制度です。
(B) 同時死亡の推定
数人の者が同時に死亡した場合において、そのうちの一人が他の者の死亡後になお生存していたことが明らかでないときは、この数人の者は同時に死亡したものと推定されます。例えば、夫Aと子Cが飛行機事故で死亡し、妻Bが残された場合において、AとCのどちらが先に死亡したか明らかでないときには、AとCは同時に死亡したものと推定されます。したがって、AとCとの間では相続が発生しないものとして扱われます。その結果、Aの財産については、BとAの両親が相続することになります。
もっとも、同時死亡が推定されるだけなので、何らかの方法で死亡時期の先後を証明できれば、それに従うことになります。
(C) 失踪宣告
ⓐ 失踪宣告の必要性
長い間にわたって生存が不明な状態が続き、死亡の蓋然性が高いのに死亡が確認できないと、その相続人は相続することができず、配偶者は再婚することができない。そこで、このような利害関係人のために、長期の生存不明者関する法律関係を確定する必要が生じます。このための制度が失踪宣告です。一定の手続を経て、裁判所が失踪宣告をすると、その者は死亡したものとみなされます。
ⓑ 失踪宣告の要件
失踪宣告は、家庭裁判所が次の通り要件が備わったときに、審判によって行われます。
(一) 生死不明が一定期間継続すること
失踪者の生死が一定期間明らかでないことです。失踪期間には2種類あります。
㊀ 普通失踪
普通失踪の失踪期間は、7年間です。
㊁ 特別失踪
戦地に臨んだ者・沈没した船舶の中に在った者その他死亡の原因となるべき危難に遭遇した者については、戦争が止んだ後・船舶が沈没した後またはその他の危難が去った後1年間です。これを、特別失踪といいます。
(二) 利害関係人の申立て
家庭裁判所が失踪宣告をするには、利害関係人による失踪宣告の申立てが必要です。利害関係人とは、失踪宣告を求めることについて法律上の利害関係を有する者をいいます。
ⓒ 失踪宣告の効力
失踪宣告がなされると、死亡したのと同じ扱いがなされます。もっとも、そのような扱いを受けるのは、従来の住所を中心とする法律関係についてであって、失踪者本人の権利能力が消滅するわけではありません。したがって、失踪者が実際には別の場所で生きていた場合に、その地で行った契約などはすべて有効です。
死亡したものとみなされる時期について、普通失踪と特別失踪とでは異なります。普通失踪では、失踪期間が満了した時です。特別失踪では、危難が去った時です。これは、特別失踪では、危難によって死亡したとみなされる者が失踪期間の間生きているとみるのは、不合理だからです。
ⓓ 失踪宣告の取消し
(一) 意義
失踪宣告がなされても、本人が生きていたことが明らかになったり、失踪宣告によって死亡したとみなされたのと異なる時期に死亡したことが判明したりした場合には、失踪宣告を取り消して、事実に沿った扱いをしなければなりません。これが、失踪宣告の取消しです。
失踪宣告が取り消されると、本人が死亡したことを前提として作られたそれまでの法律関係(例えば相続)は、その基礎を失うことになります。本人の利益と失踪宣告を信頼して行為をした者の利害との調整が必要になります。
(二) 要件
次の要件を充たしている場合には、家庭裁判所は、審判によって失踪宣告を取り消さなければなりません。
㊀ ①失踪者が生存すること、または②宣告によって死亡したものとみなされる時と異なる時に死亡したことの証明があったとき
㊁ 本人または利害関係人の申立て
(三) 効果
㊀ 遡及効の原則
失踪宣告が取り消されると、失踪宣告によって財産を得た者は、その権利を失います。これは、失踪宣告の取消しの審判が確定すると、はじめから失踪宣告がなかったものとして扱われるからです(失踪宣告における遡及効です)。例えば、失踪者Aが死亡したものとして相続人が財産を相続によって取得した場合、その財産をAに返還しなければなりません。もっとも、現に利益を受けている限度(現存利益)においてのみ、返還すればよいとされています。ただし、悪意者(失踪者が生存していることや死亡したものとみなされる時とはことなる時期に死亡していたことを知っている者のことです)の返還ん義務は、現存利益に限られないと考えられています。
㊁ 遡及効の制限
失踪宣告の取消しは、失踪宣告後その取消し前に善意(失踪宣告が事実に反することを知らないこと)でした行為の効力には影響を及ぼしません。これは、失踪宣告の取消しまでの間になされたすべての財産の移転行為がはじめからなかったものとして扱われると、第三者に不測の損害を与えるおそれがあることから、失踪宣告の取消しの遡及効を制限する必要があるからです。例えば、Aが失踪宣告を受け、子Bが相続し、Bが相続した甲土地をCに売却した後に、失踪宣告が取り消された場合です。
善意について、判例は、当事者双方が善意でなければならないとしています。これは、失踪者が権利状態を回復できない不利益を受けることから、当事者一方の善意では足りないと考えられるからです。したがって、Aの失踪宣告が取り消されたとしても、BCがともに善意であれば、Cは甲土地をAに返還する必要がありません。これに対し、Cは善意だがBは悪意であれば、Cは甲土地をAに返還しなければなりません。
このほかに、失踪者の配偶者が、失踪宣告後に再婚したが、その後失踪者が生存していることを理由に失踪宣告が取り消された場合における取扱いが問題とされています。
(2) 住所・不在者
① 住所
各人の生活の本拠をその者の住所とされます。住所は、弁済の場所を定める基準・不在者および失踪の基準、相続の開始地点などを定める意味を持っています。生活の本拠とは、人の生活の中心である場所のことです。
② 不在者
(ア) 意義
従来の住所を去った者を不在者といいます。このような者については、財産の管理をする必要が生じます。このため、不在者の財産管理について国家が干渉することが認められているのです。
(イ) 不在者の財産管理
㋐ 不在者に財産管理人のいない場合
(A) 家庭裁判所による必要な処分命令
不在者が任意に管理人を置かず、しかも法定代理人を欠く場合、家庭裁判所は、利害関係人または検察官の申立てによって、その財産の管理について必要な処分を命ずることができます。「必要な処分」の主要なものは財産管理人の選任です。
財産管理が不要となった場合(本人が後日に管理人を置いたとき・本人自ら財産を管理することができるようになったとき・本人の死亡が明らかになったとき・本人に失踪宣告がなされたときなど)家庭裁判所は、選任された管理人・利害関係人・検察官の申立てによって、管理人選任の命令を取り消さなければなりません。これによって、不在者の財産管理は終了します。
(B) 選任された管理人の権限
家庭裁判所の選任する管理人の権限は、裁判所の命令の内容によって決まります。権限の範囲が明らかでない場合は、管理人は、保存行為と利用改良行為をする権限を有することを前提に、この範囲を超える行為(財産を処分する行為)を必要とするときは、家庭裁判所の許可を得れば、その行為をすることができます。
選任された管理人は一種の法定代理人です。これは、管理人の権限は財産管理権であり、管理人の選任等は本人の意思とはかかわりなく行われるからです。
本人が不在であることから、家庭裁判所による選任管理人への関与が認められています。
㋑ 不在者が財産管理人を置いている場合
不在者の置いた任意の管理人の権限は、通常、委任契約によって定まります。
しかし、次の場合には、委任契約によることはできず、国家の関与が必要となります。
①本人の不在中に管理人の権限が消滅したとき。これは、不在者が管理人を置かなかったときと同一の事態となるからです。そのため、この場合には、㋐と同じように取り扱われます。
②不在者の生死が明らかでないとき。これは、本人による管理人への監督がもはや期待できないからです。家庭裁判所は、事情に応じ、利害関係人または検察官の申立てによって、管理人を改任することもできるし、従来の監督人を監督しつつ、この監督人に選任監督人と同じような権限と義務を与えることもできます。
(参照条文)民法3条1項2項、886条、721条、965条、32条の2、889条1項1号、30条、31条、22条、484条1項、25条、883条、103条、28条、27条、26条、戸籍法89条、家事事件手続法39条、別表一56
(参考判例)大判昭和7年10月6日民集11巻2023頁(民法判例百選Ⅰ(第6版)3事件)、大決昭和7年7月26日民集11巻1658頁、大判昭和13年2月7日民集17巻59頁
(参考文献)内田貴「民法Ⅰ(第4版)総則・物権総論」(東京大学出版会、2008年)91頁以下
四宮和夫・能見善久「民法総則(第9版)」(弘文堂、2018年)33頁以下
鈴木禄弥「民法総則講義(二訂版)」(創文社、2003年)3頁以下
(司法書士・行政書士 三田佳央)
