契約の効力

(1) 債権債務関係の発生

契約が有効に成立すると、契約の内容に応じた法律効果が生じます。その中心となるのは、契約により義務が発生し、その履行を請求できることです。例えば、AとBとの間で、BがAの所有する甲パソコンを10万円で購入するという契約が有効に成立すると、BはAに対して代金10万円を支払う義務が発生し、AはBに対して甲パソコンを引き渡す義務が発生します。このAとBに発生した義務のことを「債務」といいます。これを別の角度から見ると、AにはBに対して代金10万円の支払いを請求する権利が発生し、BにはAに対して甲パソコンの引渡しを請求する権利が発生していることになります。このAとBに発生した権利のことを「債権」といいます。

(2) 「契約の効力」と「債権の効力」

このように、契約は債権の発生原因であり、契約当事者が相手方に何らかの行為を請求する権利は債権として把握されるので、「契約の効力」の問題は「債権の効力」の問題と重なります。債権には、契約を原因として発生する債権と、法律の要件が充たされれば法律上当然に発生する債権があります。したがって、債権の効力には、すべての債権に関する問題と、契約上の債権に特有の問題があることになります。

 ① すべての債権の効力

これには、①請求力、②給付保持力、③訴求力、④執行力があります。

 (ア) 請求力

債権者が債務者に対し、任意に履行するように請求できる力を請求力といいます。履行とは、債務の内容を実現する債務者の行為のことです。債権に請求力があるので、債権者による請求は、権利の行使と評価され、原則として不法行為とはなりません。

履行の請求をすることによって一定の法的効果が生じることがあります。法定追認・時効の完成猶予・履行遅滞責任の発生・解除の要件の充足です。この中には、履行の請求が「催告」として構成されているものもあります。

債務の履行が不能であるときは、債権者はその債務の履行を請求することができません。

 (イ) 給付保持力

債務者の行った給付を適法に保持できる力を給付保持力といいます。債権に給付保持力があるので、債権者は債務者の行った給付を受領し、保持することができ、それは不当利得とはなりません。不当利得とは、法律上の原因がないにもかかわらず、他人の財産や労務によって利益を受けたり損失を及ぼしたりすることです。不当利得の要件を充たしている場合には、その利益等を相手方に返還しなければなりません。

(ウ) 訴求力

債権者が債務者に対し、訴えによって履行を請求することができる力を訴求力といいます。債務者が任意に履行しない場合、債権者は債務者の意思に反して給付の目的物を持ち去ることができないので(これを自力救済といいます)、裁判所に訴えを提起し、給付判決を得ることができます。給付判決とは、原告である債権者が被告である債務者に対して給付を請求し、裁判所がそれを認めて被告に対して給付義務を履行するように命じる判決のことです。

 (エ) 執行力

債権者が給付判決を得たが、なお債務者が任意に履行しない場合、債権者は強制執行手続を行うことにより、国家機関の手によって債権の内容を実現することができます。これを執行力といいます。

債権者は、原則として、債務者のどの財産にも強制執行をすることができます。裁判所・執行官が債務者の財産を差し押さえ、それを換価し、得られた金銭を債権者に交付します。もっとも、債務者の財産の中でも、抵当権などの担保権が設定されている財産については担保権の権利者が優先します。また、債務者の仕事や生活に必要なものなど、差し押さえることができない財産もあります。したがって、担保権を有しない一般債権者が債権の内容の実現の担保とすることができるのは、債務者の総財産から、担保権の対象となっている財産と差押禁止財産を除いたものということになります。これを、一般財産といいます。

 (オ) 損害賠償の請求

債務者が任意に履行しない場合、債権者は損害賠償を請求することができます。

 ② 契約上の債権に特有の効力

これには、①同時履行の抗弁、②危険負担、③第三者のためにする契約、④契約の解除があります。

 (ア) 同時履行の抗弁

双務契約の当事者の一方は、相手方が債務の履行を提供するまでは、自分の債務の履行を拒むことができます。これを同時履行の抗弁といいます。これは、双務契約の両当事者の債務相互間の履行が、結びつきの強い特別な関係(これを牽連性といいます)にあることを表すものです。同時履行の抗弁は、双務契約に特有の問題です。

双務契約とは、当事者双方が債務を負い、両者の債務が相互に対価としての意義をもつものをいいます。例えば、売買契約が成立すると、売主は目的物を引き渡す義務を負い、買主は代金を支払う義務を負います。双方の債務は、対価としての意義をもつので、売買は双務契約です。これに対し、当事者の一方のみが債務を負う契約を片務契約といいます。例えば、贈与契約が成立した場合、贈与者は目的物を引き渡す債務を負うが、受贈者は義務を負わないので、贈与は片務契約です。

 (イ) 危険負担

当事者双方の責めに帰することができない事由によって債務を履行することができなくなった場合に、他方の債務はどうなるかという問題があります。これが危険負担の問題です。

例えば、AB間でAの所有する甲パソコンを10万円で売却する契約が締結されたが、天災地変による火災が原因で甲パソコンが焼失し、それを引き渡すことができなくなった場合には、Aの責めに帰することができない事由によるものなので、Aは損害賠償責任を負いません。では、BはAに代金を支払わなければならないでしょうか。ここでは、双務契約における一方の債務が債務者の責めに帰することができない事由によって履行不能となった場合、それによる損失をどちらの当事者が負担するのかという問題が、相手方の対価の支払いを要するのか否かという形で現れているのです。このように、危険負担も双務契約に特有の問題です。

 (ウ) 第三者のためにする契約

AB間の契約により、BがCに対してある給付をすることを約したときは、CはBに対して直接その給付を請求する権利を有することになります。これを第三者のためにする契約といいます。例えば、Cを保険金受取人とするAB間の保険契約が該当します。契約の効力は当事者間においてのみ認められるのが原則ですが(これを)、第三者に利益を与える合意は、その例外として認められるのがこの第三者のためにする契約です。この第三者のためにする契約は、保険契約だけでなく、売買や贈与等の他の契約においてもその内容とすることができます。

 (エ) 契約の解除

契約における債権者は債務者が債務の履行をしなかった場合には、その契約を解除することができます。契約を解除すると、有効に成立した契約は一方的に解消されることになるので、各当事者は、相手方を契約がなかった状態に戻す義務を負います。したがって、契約を解除することで、債務の不履行によって損害を被っている当事者(債権者)をその契約から拘束から解放し、他の代替できる取引を自由に行うことが保障されることになるのです。契約の解除は、契約上の債務の不履行の場合の問題だから、契約特有の問題ということになります。

(参照条文)民法555条、412条の2第1項、709条、125条1号、150条1項、457条1項、412条2項3項、541条、703条、415条、533条、549条、536条、537条、545条、民事執行法131条、152条

(参考文献)内田貴「民法Ⅱ(第3版)債権各論」(東京大学出版会、2011年)46頁、78頁以下

中田裕康「契約法(新版)」(有斐閣、2021年)101頁、143頁以下、69頁

中田裕康「債権総論(第4版)」(岩波書店、2020年)74頁以下

(司法書士・行政書士 三田佳央)