任意後見契約は、本人の健康状態や生活状況に応じて、次の三つの利用形態が考えられます。
① 一つ目は「移行型」です。移行型とは、財産管理等の委任契約を任意後見契約と同時に締結し、本人の判断能力が低下するまでは委任契約に基づく財産管理等を行い、判断能力が低下した後は任意後見契約に移行し、後見事務を行うことを想定した形態です。
通常、任意後見契約を締結した後は、本人の判断能力が低下して家庭裁判所により任意後見監督人が選任されるまで期間が空きますが、その期間においては、任意後見監督人選任の申立てをすべき任意後見受任者は、本人の健康状態を把握し、判断能力の低下を見逃さないことが重要です。特に、自宅で一人暮らしをしている高齢者の判断能力の低下に気づかず、健康状態の悪化や財産の散逸を防ぐために利用することが想定されます。
②二つ目は「将来型」です。本人の判断能力が低下する前に財産管理等の委任契約は締結せず、任意後見契約のみを締結し、判断能力が低下した後に任意後見人の保護を受けることのみを想定した形態です。
この形態は、本人の健康状態を把握する必要があるため、定期的に本人と接触している親族等が、任意後見受任者として契約を締結することが想定されていると考えられます。
③三つ目は「即効型」です。判断能力が補助類型程度に低下している状況にある者が、任意後見契約を締結し、その後直ちに家庭裁判所に任意後見監督人選任の申立てをする形態です。 判断能力が不十分な状況にある者であっても、契約を締結する時に意思能力を有する限り、任意後見契約を締結することが可能であるとされています。
この形態は、事案に応じて柔軟な保護が期待でき、公証人による意思能力の有無を確認する機能がある一方、判断能力が不十分な者が任意後見契約を締結するため、契約を締結した時に、必要な意思能力を十分にあったかによって契約の有効性が問われる可能性があるなどの問題点が、実務では指摘されています。
(司法書士・行政書士 三田佳央)