(1) 改正の背景・必要性
成年後見制度に関する民法の改正が、今年の6月24日に成立し、公布されました。
改正の背景には、高齢化の進展や単独世帯の増加などの家族の在り方の変化により、成年後見制度についてのニーズの増加・多様化していること、障害の有無にかかわらず自己決定権を尊重するとの理念の高まりなどがあります。
(2) 改正の概要
今回の主な改正事項は、①補助類型に一本化し、後見と保佐の類型を廃止、②事理弁識能力を欠く者について、特定補助の仕組みが選択可能、③利用の必要がなくなったときに制度利用を終了することが可能、④補助人選任時に本人の意思を尊重・意向の把握を義務化、⑤本人の利益のため特に必要があるときに補助人を解任することが可能となったこと、などです。
① 補助類型への一本化
現行法では、補助のほかに保佐と後見の3つの類型がありますが、改正法では、保佐と後見を廃止して補助に一本化することになりました。
成年後見制度を利用しようとする段階で、本人の判断能力が著しく不十分な状況にあったり、あるいは判断能力を欠く常況にあったりした場合には、現行法では、その判断能力に応じて保佐または後見が開始されることになります。しかし、補助においては特定の行為について補助人に代理権や同意権・取消権を付与することが可能ですが、保佐においては重要な行為について保佐人の同意権・取消権が法定されており、後見においては包括的な代理権と取消権が法定されているので、利用動機(例えば、遺産分割、不動産の売却など)と比べて自己決定が必要以上に制限されるという問題があります。そこで、改正法では、保佐と後見を廃止し、補助に一本化することによって、本人にとって必要な範囲で制度利用を可能とし、自己決定に対する必要以上の制限を防止しています。
② 特定補助の仕組み
改正法では、本人の判断能力が不十分である場合、その程度にかかわらず補助を利用することになります。しかし、例外的に、補助を開始した者が、判断能力を欠く常況にある者であると認定されるときは、法定の重要な財産行為についていずれも取消可能とする仕組みを選択して利用可能とされています。これが特定補助の仕組みです。この仕組みは、裁判所が必要と認めたときに利用することができます。
特定補助人は、付与された特定の代理権の行使のほかに、①重要な財産行為の取消し、②本人に対する意思表示の受領、③本人の財産に関する保存行為です。①や③自己決定の尊重より本人保護を優先させたものといえます。②は、意思能力を喪失した者は意思表示の受領能力を欠いているところ、判断能力を欠く者は意思能力をも欠く者といえるからです。
③ 制度利用の終了
現行法では、本人の判断能力が回復していなければ、成年後見制度の利用を終了することができません。しかし、この点については、制度利用の動機の事務が終了しても本人の判断能力が回復しない限り利用をやめることができないという指摘がなされていました。そこで、改正法では、本人の判断能力が回復していない場合でも、制度利用の必要がなくなったと家庭裁判所が認めるときは、申立てまたは職権により、制度利用を終了させることが可能となっています。職権による制度利用の終了は、補助人に義務付けられている家庭裁判所への毎年1回の本人の状況報告の際に、制度利用の必要について判断することが想定されています。
④ 本人の意思の尊重・意向の把握の義務
現行法においても、後見人等選任時に本人の意見を考慮すべきであるとされていますが、改正法では、補助人選任時において「本人の意見」が重要な考慮要素であることが明確にされました。
また、現行法上の実務において、後見人等が本人の意向を十分に把握することなく、本人の意向に沿わない事務が行われていることにより本人の自己決定が尊重されない場合があることが指摘されています。そこで、改正法では、補助人がその職務を遂行する際に、本人に情報を提供し、本人から話を聴くなどの適切な方法により、本人の意向を把握するようにしなければならないことが明確化されました。そして、補助人がその事務を遂行するに当たっては、把握した本人の意向を尊重しなければならないとされています。
⑤ 本人の利益のために特に必要があるときの補助人の解任
後見人等を交代させるには、現行法では、後見人等の不正な行為や著しい不行跡などの後見人等の側の事情に着目した事由でのみ可能とされています。改正法では、解任事由に「本人の利益のために特に必要があるとき」が追加されました。これにより、補助人に不正な行為(横領など)がなない場合であっても、例えば、補助人が本人との面談を行わないなどによって本人が適切な保護を受けることができないときなどに、その補助人を解任して他の補助人に交代することが可能となりました。
⑥ その他
上記以外の改正事項としては、判断能力を欠く常況にある者について特別代理人の選任、補助人の報酬決定の際に補助人が行った事務の内容等が考慮要素であることの明確化、補助人における一定範囲での死後事務の権限の明確化などがあります。
⑦ 改正法の実務に対する影響
(ア) 補助への一本化
まず、保佐と後見の類型を廃止して補助類型に一元化したことについてですが、指摘されているとおり、保佐と後見では本人のニーズに応じた利用がしづらくなっている制度設計であるといえます(特に後見)。また、実務では、本人の判断能力の程度が、どの類型に相当するのかの判断が微妙で難しいケースがあります(後見相当寄りの保佐相当など)。改正法では、補助に一本化されるので、本人の必要性に応じた権限を補助人に不要することが可能となるだけでなく、本人の判断能力に応じた類型を選択する必要がなくなるので、その負担がなくなることになります。
(イ) 特定補助の仕組みの新設
もっとも、改正法では、判断能力を欠く常況にある者(現行法でいう後見相当)について、特定補助の制度を新設しました。特定補助人には包括的な取消権が付与されるので、この点は本人のニーズよりも本人保護を優先させたといえるでしょう。ただ、実際には、取消権を行使する場面はあまりなく、意思表示の受領については、補助人が本人に対する意思表示を受領することができるような仕組みを講じたり、特別代理人を選任したりするなどして対応が可能であることを踏まえると、特定補助人の活用はあまりされないのではないかと思われます(特定補助の仕組みを利用する必要性が乏しい)。
(ウ) 制度利用の終了、補助人の解任(交代)
次に、制度利用の終了について、改正法では、本人の判断能力が回復していなくても制度利用の終了を可能としています。また、補助人の解任(交代)についても、改正法では、本人の利益のために特に必要があるときには、補助人の解任(交代)を可能としています。 しかしながら、制度利用の終了については、「必要がなくなったと認めるとき」に制度利用を終了することができるとしていますが、それを判断するのは家庭裁判所です。また、補助人の解任についても、本人の「利益のために特に必要があるとき」か否かを判断するのは家庭裁判所です。したがって、改正法によって成年後見制度が本人のニーズや利益に適うものになったかどうかについては、家庭裁判所による運用によるところが少なくないといえるでしょう。
さらに、制度利用の終了についていえば、実際には、利用の動機となった事務が終了しても、日常的な課題が判明したり、第三者による支援を受けることが困難な状況にあり、制度利用を終了することにより本人に不利益が生じてしまうようなケースが少なくないので、改正法によっても、家庭裁判所が判断能力を回復していない本人について制度利用を終了するという判断をすることはあまりないのではないかと思われます。
(司法書士・行政書士 三田佳央)
