占有権3(占有の訴え)

(1) 占有の訴えとは

物の占有者は、占有が妨害された場合やそのおそれがある場合に、その占有が正当な権原に基づくものか否かを問わず、妨害の停止や予防措置を求める権利を有します。これを占有訴権といいます。そして、この権利の行使としての訴えを、占有の訴えといいます。

(2) 占有の訴えの種類

占有の訴えには、占有保持の訴え、占有保全の訴え、占有回収の訴えの3種類があります。

占有保持の訴えとは、占有を妨害された占有者が、その妨害の停止を求める訴えのことです。例えば、Aが占有する甲土地に、Bが所有する乙自動車を放置している場合、AがBに対して乙の引取りを請求することができます。

占有保全の訴えとは、占有を妨害されるおそれがある占有者が、その妨害の予防措置を求める訴えのことです。例えば、Aが占有する甲土地に、C所有の丙建物が倒壊しかかっている場合、AはCに対して丙建物の倒壊の防止措置を請求することができます。

占有回収の訴えとは、占有を奪われた占有者が、物の返還を求める訴えのことです。例えば、Aの占有する丁自転車をDがAに無断で持ち去った場合、AはDに対して丁の返還を請求することができます。

(3) 占有の訴えの効果

占有の訴えには、それぞれの種類に応じて、相手方に対して妨害の停止(排除)、妨害の予防措置を講じること、物の回収(返還)を請求することができます。このほか、占有保持の訴えと占有回収の訴えにおいては、占有の妨害や物の侵奪(意思に基づかずに占有を奪われたことをいいます)によって生じた損害の賠償を請求することができます。この損害賠償請求権は、実質的には不法行為を理由とするものです。占有保全の訴えにおいては、相手方に対して妨害の予防措置を講じることに代えて、妨害が将来発生した場合の損害賠償請求権を保全するための担保の提供を請求することができます。

占有の訴えには、短期の行使期間制限があります。これは、占有の訴えによる保護は現状維持のための応急処置であり、かつ仮の保護に過ぎないと考えられているからです。

(4) 占有の訴えの要件

各占有の訴えの要件は、次のとおりです。

 ① 占有保持の訴え

占有保持の訴えの要件は、①目的物を占有していること、②相手方が目的物の占有を妨害している事実が発生していること(占有侵奪以外の方法で)です。

ただし、この訴えは、妨害が存在する間かその消滅した後1年以内に提起しなければなりません。この期間内であっても、工事による妨害であって、その工事に着手してから1年を経過したか工事が完成したときは、この訴えを提起することができません。

 ② 占有保全の訴え

占有保全の訴えの要件は、①目的物を占有していること、②その占有を相手方が妨害する危険性が発生していること、③妨害の予防措置を講じる必要性があることです。

この訴えは、妨害の危険が存在する間に、提起することができます。この場合において、工事により占有物に損害が生ずるおそれがあるときは、その工事に着手してから1年を経過したか工事が完成したときは、この訴えを提起することができません。

 ③ 占有回収の訴え

占有回収の訴えの要件は、①目的物を占有していたこと、②相手方が目的物を占有していること、③占有の喪失の原因が侵奪であることです。したがって、占有の喪失が侵奪以外の原因である場合には、占有回収の訴えを提起することはできません(例えば、相手方の詐欺によって目的物の占有が相手方に移転したとき)。

ただし、占有を奪われた時から1年を経過した後には、占有回収の訴えを提起することができません。また、占有回収の訴えは、占有の侵奪をした物の特定承継人(侵奪の事実を知らない者に限ります)に対して提起することができません。したがって、Aの占有する甲パソコンをBが奪い、甲をCに売却した場合、Cが甲を盗まれた物だと知らないときは、Aは占有回収の訴えを提起することができません。

(4) 物権的請求権との関係

 ① 占有権と本権が同一人に属する場合

占有の訴えは本権の訴えを妨げることはなく、また、本権の訴えは占有の訴えを妨げることもありません。したがって、Aの所有する甲パソコンをBが奪ったとき、AはBに対して占有回収の訴えを提起することができるだけではなく、所有権に基づく返還請求の訴えを提起することもできます。これらの訴えを同時に提起することもできるとされています。また、占有回収の訴えで敗訴してから所有権に基づく返還請求の訴えを提起することもできるとされています。

 ② 占有権と本権が別人に属する場合

占有の訴えについては、本権に関する理由に基づいて裁判をすることができません。したがって、Dの所有する乙土地に何の権原もなくCが占有していたので、Dが実力でCを排除しようとしたので、CがDに対して占有保全の訴えを提起したので、DはCに対して所有権に基づく返還請求権ないし妨害排除請求権を主張してCの訴えを退けることはできないのです。しかし、Cの訴えとは別にDが妨害排除の訴えを提起することはできます。両者は別次元の問題だからです。

では、DはCの占有の訴えに対して、反訴として本権に基づく訴えを提起することはできるでしょうか。反訴とは、訴訟の係属中に同じ手続の中で被告が原告を相手方に対して訴えを提起することです。反訴が認められると、本訴(原告が被告を相手方として提起していた訴え)と同時に審理され、判決がなされます。

判例は、占有の訴えに対して本権に基づく反訴を提起することを認めています。これは、反訴までは禁止されていないし、反訴を禁止しても上述のように占有の訴えの被告が本権を主張して別訴を提起することまでは禁止されていないので、反訴を禁止する意義や実益が少ないからです。

(参照条文)民法197条、198条、199条、200条1項2項、709条、201条、202条1項2項、民事訴訟法146条

(参考判例)最判昭和40年3月4日民集19巻2号197頁(民法判例百選Ⅰ(第9版)66事件)

(参考文献)内田貴「民法Ⅰ(第4版)総則・物権総論」(東京大学出版会、2008年)417頁以下

佐久間毅「民法の基礎2物権(第4版)」(有斐閣、2026年)314頁以下

(司法書士・行政書士 三田佳央)