所有権の客体

(1) 序説

AとBとの間で、Aが所有する甲パソコンを10万円で売却する旨の契約が締結されると、甲パソコンの所有権がAからBに移転します。この所有権とはどんな権利でしょうか。また、所有権の対象となる客体は何でしょうか。民法は所有権の対象となる客体を「物」として規定しています。そこで、まずは、「物」について述べていきます。

(2) 物とは何か

「物」とは、有体物をいうとされています。有体物とは空気の一部を占めるもののことです。液体・気体・個体がこれにあたります。これは、所有権の客体を全面的な支配に適する物に限定するためです。所有権の有無が問題となったときに、その客体を確定できないと困るからです。もっとも、現在では無体物(権利や自然エネルギーなど姿のないもののことです)にも所有権成立することが認められているからです(例えば、電気の供給契約は、実質的には電気の所有権の売買と考えることができます)。

(3) 不動産・動産

 ① 意義

物は。不動産と動産に分けられます。これは、不動産と動産とでは異なった扱いをする必要があるからです。では、不動産と動産はどのように区別されるのでしょうか。

 ② 不動産

土地およびその定着物は不動産とされます。定着物とは、土地に固定されており、取引通念上継続的に固定された状態で使用されるものをいいます。例えば、建物・銅像・線路・鉄管(上下水道の給水・排水などに使われます)などです。土地の定着物は、原則として土地の一部となり、土地所有権に含まれますが、例外があります。

建物は、土地とは別の不動産とされます。すなわち、土地と建物とは別個の不動産とされるのです。不動産登記は土地と建物を別個の不動産として扱っています。

建物といえるためには、完成する必要はなく、屋根と壁ができて、独立して風雨をしのげればよいとされています。

また、立木(「りゅうぼく」と読みます。樹木のことです)は、一定の方法で土地とは独立して取引の対象となります。

 ③ 動産

不動産以外の物はすべて動産とされます。ただし、船舶・航空機・自動車などは登録すれば法律上不動産と類似の扱いを受けます。

(4) 主物と従物

従物は、主物の処分に従うものとされています。従物とは、物の所有者が、その物の常用に供するため、自己の所有に属する他の物に付属させた物のことです。主物とは、従物を付属させる対象となる物のことです。例えば、建物の中にある家具は建物の従物です。建物を売却する際に、従物である家具の処分について当事者間で取り決めをしていればその取り決めに従うことになりますが、そのような取り決めがないときは、その家具も建物と一緒に売却されることになります。これは、主物(建物)から独立した物であっても、主物の継続的な経済的効用を増すために付属させた物については、主物の処分に従わせるのが取引当事者の通常の意思であると推測されるからです。

なお、判例においては、石灯籠と取り外しのできる庭石は、宅地の従物であるとされ、また、地下タンク・ノンスペース型計量機・洗車機等は、ガソリンスタンド用建物の従物であるとされています。

もっとも、建物の中にある家具であっても分離できない程に付属してしまえば、もはや独立の物とはいえなくなります。それは建物の構成部分となります。

(5) 果実

果実には、天然果実と法定果実があります。物の用法に従い取得する産出物を天然果実といいます。例えば、動物の子・農作物・鉱物などです。果実を産出する物を元物(げんぶつ)といいます。

物の使用の対価として受けるべき金銭その他の物を法定果実といいます。例えば、アパートの家賃などです。

天然果実は、その元物から分離する時に、その果実を収取する権利を有する者に帰属します。例えば、子犬の所有権は、出産の時に親犬を所有している者に帰属することになります。これは、所有権は果実を収取する権利を含むからです。

法定果実は、その果実を収取する権利の存続期間に応じて、日割計算によりその果実を取得します。例えば、賃貸中のアパートを家主が売却すると、所有権が移転した日を基準に、日割計算によって賃料を旧所有者と新所有者が取得することになります。

(参照条文)民法85条、86条、87条、88条、89条

(参考判例)最判昭和44年3月28日民集23巻3号699頁(「民法判例百選Ⅰ(第9版)」81事件)、最判平成2年4月19日判タ734号108頁

(参考文献)内田貴「民法Ⅰ(第4版)総則・物権総論」(東京大学出版会、2008年)353頁以下

(司法書士・行政書士 三田佳央)