第三者のためにする契約

(1) 意義

当事者の一方が第三者に対してある給付をすることを約する契約ことを、第三者のためにする契約といいます。例えば、AB間の売買契約で代金を買主BがCに支払う旨を定める場合です。このような定めをする理由としては、AがCに対する借金を返済するためなどが考えられます。このほかに、保険契約も第三者のためにする契約であるといえます。

第三者のためにする契約は、売買だけでなく、贈与・保険契約その他の様々な契約の内容として定めることができる一種の特約です。そのため、第三者のためにする契約は契約の効力として定められているのです。

第三者のためにする契約では、Aを要約者、Bを諾約者、Cを受益者といい、AC間の関係を対価関係、AB間の関係を補償関係(諾約者が受益者に対し債務を負担することに対する補償)といいます。

(2) 要件

要約者と諾約者の契約が有効に成立していなければなりません。契約は売買・賃貸借のような有償契約(当事者が互いに経済的な意味での対価としての給付をする契約)に限らず、贈与のような無償契約でもよいです。

その契約には、諾約者が第三者に対してある給付をすることを約し、第三者に直接その給付を請求する権利を取得させることが含まれていなければなりません。

第三者のためにする契約の締結時に第三者が現に存在しない場合(胎児・設立中の法人など)や第三者が特定していない場合(甲の事業を承継した者など)であっても、契約は効力を妨げられません。

(3) 効果

 ① 第三者・諾約者間の関係

 (ア) 受益の意思表示

第三者が諾約者に対して契約の利益を享受する意思を表示した時に(これを受益の意思表示といいます)、第三者の権利が発生します。これは、契約の効力を第三者にも及ぼす必要がある場合において、その必要性に考慮しつつ第三者がその契約によって権利の取得を押し付けられないようにするためです。

 (イ) 受益の意思表示をした後の法律関係

受益の意思表示をして第三者の権利が発生した後は、要約者と諾約者は、その権利を変更したり消滅させたりすることができません。

第三者の権利が発生すると、第三者は、諾約者に対し、直接に給付を請求することができます。もっとも、諾約者は要約者との契約に基づく抗弁(同時履行の抗弁など)を有するときは、第三者からの給付の請求を拒むことができます。これは、諾約者の第三者に対する債務は、要約者との契約から生じているものだからです。

第三者が受益の意思表示をしたのに諾約者が履行しない場合、第三者は諾約者に対し、自分に履行するように請求することができ、損害賠償も請求することができます。ただし、第三者は、要約者・諾約者間の契約を解除することはできないと考えられます。これは、第三者は契約の当事者ではないからです。

 ② 要約者・諾約者間の関係

 (ア) 履行請求

第三者が受益の意思表示をした場合、要約者は、諾約者に対し、第三者に給付するように請求することができます。第三者が諾約者に対する権利を有するに至った後も、要約者も同様の権利を有するとすることが、当時者の意思に合致するからです。

 (イ) 解除

受益の意思表示により第三者に権利が発生した後に、諾約者が第三者に対して給付をしない場合には、要約者は、第三者の承諾を得なければ契約を解除することができません。これは、第三者に権利が発生した後は、要約者はその権利を消滅させることができないからです。

なお、意思表示について、錯誤・詐欺・強迫などの取消原因があるときは、要約者または諾約者は、この意思表示を取り消すことができます。

 ③ 要約者・第三者間の関係

要約者と第三者との間には、対価関係がありますが、これは第三者のためにする契約の内容とはなりません。対価関係が無効であったり取り消されたりした場合でも、第三者のためにする契約の効力には影響しません。ただし、対価関係がないのに給付を受けた第三者は、要約者に対して不当利得返還義務を負うことがあります。

(参照条文)民法537条、538条、539条、415条

(参考判例)

(参考文献)内田貴「民法Ⅱ(第3版)債権各論」(東京大学出版会、2011年)78頁以下

中田裕康「契約法(新版)」(有斐閣、2021年)171頁以下

(司法書士・行政書士 三田佳央)